前回に続いて、やはり「日馬富士暴行傷害事件」について書かねばならない。が、今回書いておくべきは「事件」そのものではなく、近年の白鵬の相撲の取り口についてである。
11月九州場所千秋楽前日の14日目、白鵬が遠藤に勝って優勝を決めた一番は、はっきり言って白鵬の「反則負け」にすべきほどに酷い勝負だった。
立ち合いと同時に左手で張って出た白鵬は、遠藤の頭を自分から見て右側に振らせ、その遠藤の顔めがけて右肘で「エルボー・スマッシュ(肘打ち)」を決めた。そして、この衝撃で腰の砕けた遠藤を、一気に土俵の外へと押し出した。
まず立ち合いと同時の「張り手(張り差し)」という戦法が、「後の先」を基本とする横綱の闘いから懸け離れた、不様で美しくない闘い方である。「後の先」というのは、相手に攻めさせて受けて立ち、相手の攻める力を利用して逆転する。まさに「横綱相撲」のことだ。
その横綱相撲を放棄し、なりふり構わず自ら先に張って出る最近の白鵬の相撲は、実に見苦しい。
おまけに、続く「肘打ち」は明らかに反則技だ。当人は「かちあげ」のつもりかもしれないが、ボクシングのフックのパンチのように肘を直角に折り曲げて振り回した右肘が、遠藤の顔面を捉えて強打。ノックアウト・パンチとなっていた。
しかも不思議なのは、白鵬が右肘に分厚く2枚(?)のサポーターをはめていることだ。サポーターを使うのは右肘を痛めているからだろう。が、その痛めているはずの右肘で相手の顔面を強打するということは、痛めていないということか? それなら、なぜサポーターを装着するのか? 「肘打ち」に近い「かちあげ」から自分の肘を守るためか? ならば、あのサポーターはボクシングのグローブと同じ役割か?
そんなふうに思える相撲を、相撲協会(八角理事長)は何故注意しないのか?
あの一番は明らかに白鵬の反則で、勝負が終わったあと、行司と勝負審判は白鵬の「反則負け」を即刻宣言するべきだった。そして協会は何日間かの出場停止処分を科すべきだった。それくらい酷く、横綱相撲どころか、断じて日本の相撲とは呼べない一番だった。
これは私だけの意見ではない。ネットTVの「ニューズ・オプエド」で、私がアンカーを務める月曜日に出演してくれた相撲ジャーナリストの荒井太郎さんも、まったく同意見。テレビのワイドショーによく出演されている東京相撲記者クラブ会友の山崎正さんも私の意見に同意された。
この一番の3日前、白鵬は嘉風に敗れた一番で判定に抗議し、しばらく土俵に上がらなかった。それも横綱としてという以前に、力士として規則違反で、これも数日間の出場停止等の処分が下されるべきだった。
が、遠藤と嘉風を相手にした両取組とも、相撲協会は白鵬に対して何のお咎めもナシ。場所後に白鵬が「厳重注意」の処分を受けたのは、千秋楽の優勝インタビューで、日馬富士と貴ノ岩を土俵に戻したいという越権行為のコメントを口にしたことと、万歳三唱を行ったことに対してだった。
越権コメントも万歳も、力士(横綱)の分際をわきまえない最悪の行為だが、かちあげに見せかけた肘打ちも勝負審判に対する抗議も、絶対に許されない、厳罰に処すべき悪行である。
それを黙認するかのように見逃し続けている相撲協会(の幹部)を、「信用できない」と言う貴乃花親方の言い分も(「事件」に対する態度をすべて認めるわけではないが)理解できる。
そこで「事件」は、どんな決着を見るのか? 中途半端な幕引きで大相撲という日本文化を潰すようなことのないよう願いたい。
玉木正之