1月7日から放映が始まったNHK大河ドラマ「西郷どん」にちなんで、週刊アサヒ芸能で好評連載中の「真説!日本史傑物伝」でおなじみの河合敦先生と、歴ドルとして活躍中の美甘子が特別対談。坂本龍馬をはじめ西郷隆盛、大久保利通ら幕末・維新の傑物たちについて激論を交わした。
河合 坂本龍馬の衣装、すごく似合いますね。
美甘子 NHKで大河ドラマの「龍馬伝」が始まる1年くらい前に、高知県の観光協会から高知県のPR大使に任命された時にいただいて、イベントなどの時に着ています。
河合 そもそもどうして龍馬好きに?
美甘子 父親が11月15日生まれで、龍馬さんと同じ誕生日ということもあって、もともと龍馬好きだったんです。愛媛県今治市大三島の出身なので家族旅行でよく高知県の龍馬記念館にも行っていました。小学校5年くらいの時に武田鉄矢さん原作で小山ゆうさんのマンガ「お~い!竜馬」がNHKでアニメになって、その放送を見て、ハマッたんです。泣き虫、弱虫と言われていた龍馬さんが大きくなって事を成し遂げていくところが単純にかっこいいなあと。
河合 僕も実は龍馬ファンなんです。武田鉄矢さんの「三年B組金八先生」の第2シーズンの頃にリアルタイムに中学3年生で、金八先生に憧れました。そんな彼が尊敬する龍馬に興味を持ち、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んで歴史の教師になりました。
── 昨年の11月に、高校・大学の教員で作るグループ(高大連携歴史教育研究会)が、高校の歴史教科書から龍馬や武田信玄、桶狭間の戦いなどの用語を省略するという提言を出しました。
河合 龍馬の他には楠木正成、上杉謙信、武田信玄、幕末では吉田松陰、高杉晋作、世界史ではクレオパトラ、マリー・アントワネット‥‥。ただし僕も約30年、高校の教師をやっていましたから、どんどん歴史用語が増えて人物や事件などの数が膨大になって生徒の負担が大きくなってきているので、同じ歴史教師としては用語を削って生徒たちの負担を少なくしてあげることには大賛成です。暗記中心の歴史学習から思考力を養う歴史学習にしていくための提言だと思っています。ただ個人的には、龍馬を削ることには大反対です(笑)。
美甘子 龍馬さんは手紙をたくさん残していて、お姉さんに宛てた手紙では本当に親しみの込もった方言やギャグを入れたひらがないっぱいの手紙を書いているし、目上の人に対してはちゃんと候文で真面目に丁寧に書いていて、ちょっとがさつで大ざっぱなイメージもありますけど、実は繊細でやるべきところではきちんと真面目にやっていたんだなあと思いますね。
河合 宛てた人によって字や言葉遣いが全然違いますもんね。ここ2年ぐらいの間に3回くらい、没後150年も経て新たに龍馬の手紙が発見されていて、昨年発見されたものは、140余りある龍馬の手紙の中で初めて「新国家」という言葉が使われていたということで、たいへん貴重な発見です。越前藩の重臣だった中根雪江(なかねゆきえ)という人に宛てた手紙で、当時謹慎中だった三岡八郎(みつおかはちろう・のちの由利公正(ゆりきみまさ))を新政府の財政担当に推挙する内容でした。
美甘子 新政府に龍馬さんは入っていないのに、その財政のことを心配しているのがスゴイなあと思うのと、当人はこの手紙を書いた5日後に殺されるとは知る由もなかったけど、命が狙われるギリギリまでいろいろと走り回っていたんだなあ、熱いなあと思いますね。
河合 龍馬はあの時点で、大政奉還を終えて倒幕派に転向しているんですね。5日後に龍馬を殺したのが誰かは、いまだに謎ですけどね。京都見廻組(みまわりぐみ・幕府の直参旗本で構成された京都の警備隊)だと思うんですが、美甘子さんは誰だと?
美甘子 私も実行犯は見廻組だと思うんですけど、裏に薩摩藩とか紀州藩とかの黒幕がいて暗殺を命じられてやったのか、龍馬さんはその時には、尊攘(そんじょう)派、公武合体派のどちらからも狙われてもおかしくないようなところがあるから、どの説も正しく聞こえるという感じですね。
河合 僕は、黒幕は後藤象二郎(ごとうしょうじろう)かもしれないと考えています。
美甘子 えーっ、土佐藩説ですか!
河合 後藤は土佐藩の重臣で、龍馬と会って大政奉還を含む新政府構想「船中八策(せんちゅうはっさく)」を知らされて感激し、その実現を将軍慶喜に勧めた人物です。ところが龍馬は大政奉還が実現する前、薩長倒幕派からそんな悠長な余裕はないって言われて方針を転換します。後藤を引っ込めて板垣退助を出そうという龍馬の手紙も残っている。土佐藩にライフル銃1000丁を買い取るよう持ち込み、武力倒幕に加わるように誘っているんですね。これは、大政奉還を命がけで進めていた後藤にとってみれば裏切りです。
美甘子 じゃあ河合先生の説では、後藤象二郎が見廻組の人に頼んで龍馬を殺したということですね。
河合 後藤は見廻組の佐々木只三郎(ささきたださぶろう・龍馬暗殺の実行犯の一人とも言われる)の兄・手代木勝任(てしろぎかつとう)と旧知の仲で、彼にひと言、龍馬の居場所を漏らせばいいわけです。ただ、幕府の大目付・永井尚志(ながいなおむね)の線も否定できません。龍馬は彼の屋敷をよく訪れていましたが、永井も手代木と交流があったんです。しかも、永井の屋敷は佐々木たちの拠点である寺院と隣接していた。だから偶然、佐々木たちが龍馬を見かけた可能性もありますね。
<プロフィール>
美甘子(みかこ) 1982年生まれ。愛媛県今治市、国宝とロマンの島・大三島出身。専修大学文学部日本語日本文学科卒業。坂本龍馬など歴史上の人物をこよなく愛する「歴ドル」として、テレビ、ラジオ、雑誌などで活躍中。高知県観光特使、神々の国宮崎PR大使、いよココロザシ大学生徒会長なども務める。著書に「龍馬はなぜあんなにモテたのか」(KKベストブック)など。趣味は歴史上の人物のお墓参りと、昭和の香り漂う純喫茶巡り。特技は幕末の志士たちの変名や辞世の句が言えること。
河合敦(かわい・あつし) 1965年、東京都出身。青山学院大学文学部史学科卒業、早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(教育学研究科社会科教育専攻日本史)。高校教師27年の経験を生かし、歴史研究家、歴史作家として講演、執筆、テレビをはじめとするさまざまなメディアで日本史の解説を行っている。「読めばすっきり!よくわかる日本史」(角川SSC新書)など著書多数。昨年は自身初の歴史小説「窮鼠の一矢」(新泉社)を上梓。第17回郷土史研究賞優秀賞、第6回NTTトーク大賞優秀賞受賞。