美甘子 幕末ではやっぱり龍馬に関わる人が好きですね。山口県の萩とかにも家族旅行で行って、松下村塾などにも行ったことがあったから吉田松陰も高杉晋作も好きだし。あと陸奥宗光も好き。海援隊に入って陸奥はすごく龍馬を慕っていたじゃないですか、龍馬が暗殺された時すぐに復讐に出ていったのも陸奥宗光だったし。徳川御三家の紀州藩の出なのに龍馬の側に付いた、ちょっとおもしろい立ち位置の人で、伊呂波丸(いろはまる)事件(龍馬の乗った伊呂波丸と紀州藩の船の衝突事件で紀州藩は海援隊に多額の賠償金を払うことになった)でも陸奥は海援隊の側についていたから、よっぽど龍馬のことが好きだったんだろうなと。陸奥は写真もたくさん残っていて、かっこよくてスマートで奥さんの亮子さんも鹿鳴館の花と言われていたすごくきれいな人。美男美女カップルで、すごい愛妻家だったというのもあって好きですね。
河合 僕は龍馬が一番だとすると、二番目に好きなのは勝海舟ですね。西郷隆盛との江戸無血開城の説得もそうだし、長州征討の時にも西郷なんかは強硬派だったのに、勝海舟からこれからは有力な藩の共和政治をするべきだって言われると、あまりにスゴイことを言う勝に驚いて、コロッと路線を変更して以後は長州と武力衝突しない方向に動いていく。貧乏旗本から、命をかけたハッタリ、人を動かす才覚だけで、結局、国を大きく動かしていったというのは、本当にスゴイですね。まあ、お妾さんと正妻と川の字で寝てたとか、人間的にはどうなんだろうという一面もありますけどね(笑)。
美甘子 勝先生がいなかったら、日本の海軍とかもできなかっただろうし、大政奉還などもできなかったでしょうね。
河合 勝は人を育てる能力、それがスゴイですね。例えば「若者を育てるのに自尊心を傷つけてはいけない」「若者には信頼して重い責任とか負荷を与えるべきだ」ということを言っているんです。龍馬にも越前藩の松平春嶽から海軍の学校の費用を借りてこいという命令を出して、みごとに龍馬はその負荷と信頼に応えたわけです。あとは有名な人ではないので番外編ですが、最近、僕は初めての歴史小説「窮鼠の一矢」を書いて、越後の鳥居三十郎(とりいさんじゅうろう)という人物が好きになりましたね。新潟県の小さな村上藩の若い家老です。戊辰戦争では東北と越後の31藩が奥羽越列藩同盟を結んで新政府と戦うも、やがて村上城下に新政府軍が押し寄せてきます。この時、大半は降伏しますが、鳥居ら200人の主戦派はそれを潔(いさぎよ)しとせず、城から離脱して隣の庄内藩(鶴岡市)に行って戦うんです。結果、恭順した村上藩士とも戦うことになりました。ただ、鳥居は藩境に新政府の大軍が襲来しても、ひるむことなく迎え撃ち、ついに守りきったのです。ただし、戦後は藩の責任を一身に背負って、潔く切腹して果てたのです。そんな生き様に感激したんです。
美甘子 同じ藩の人が敵味方に分かれて戦う、泣けるというか、切ないお話ですね。ドラマとか映画になるといいですね。私も「龍馬伝」の最終回にちょこっと出させてもらったんですけど、映画化の時には私も出してください。
河合 そうなんですか、僕も大河ドラマに出させてもらいたいなあ。
美甘子 私は、龍馬が暗殺された京都近江屋にお醬油を買いに来る町娘の役で、ほぼ後ろ姿しか映ってないんですけど。
<プロフィール>
美甘子(みかこ) 1982年生まれ。愛媛県今治市、国宝とロマンの島・大三島出身。専修大学文学部日本語日本文学科卒業。坂本龍馬など歴史上の人物をこよなく愛する「歴ドル」として、テレビ、ラジオ、雑誌などで活躍中。高知県観光特使、神々の国宮崎PR大使、いよココロザシ大学生徒会長なども務める。著書に「龍馬はなぜあんなにモテたのか」(KKベストブック)など。趣味は歴史上の人物のお墓参りと、昭和の香り漂う純喫茶巡り。特技は幕末の志士たちの変名や辞世の句が言えること。
河合敦(かわい・あつし) 1965年、東京都出身。青山学院大学文学部史学科卒業、早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(教育学研究科社会科教育専攻日本史)。高校教師27年の経験を生かし、歴史研究家、歴史作家として講演、執筆、テレビをはじめとするさまざまなメディアで日本史の解説を行っている。「読めばすっきり!よくわかる日本史」(角川SSC新書)など著書多数。昨年は自身初の歴史小説「窮鼠の一矢」(新泉社)を上梓。第17回郷土史研究賞優秀賞、第6回NTTトーク大賞優秀賞受賞。