テリー 昨年はサンマが不漁でしたよね。その理由として、中国の人たちがサンマのおいしさを知ってしまって、全部かっさらってしまったからだ、という話もありました。
木村 ええ、そうですね。
テリー 寿司が世界中に普及した反面、そういうことが続いてネタの高騰が続くと、「すしざんまい」のように寿司を安くおいしく提供する店の経営が厳しくなっていくような気がするんですが、その辺りは?
木村 いや、そんなことにはならないでしょう。私はこの30年、よいマグロがいつも安定して獲れるようにと、資源を増やすことに努めてきました。今、その成果が出てきていると思います。実際、北大西洋では、脂ののった200キロ以上の本マグロが、1日3万トン獲れるんですよ。これは、今までだと3カ月かけても獲れるかどうかわからないぐらいの量です。
テリー それは、どういう方法なんですか?
木村 マグロを捕まえて、産卵場所で備蓄するんですよ。マグロって、普通は100キロで100万個、200キロで150万個ぐらいの卵を産むんです。で、100万個の卵から1キロまで成長できるのが4匹、30キロまでが3匹、200キロまでが2匹という自然の摂理があるんです。
テリー へぇ、おもしろいですね。
木村 ところが産卵場所で成長させると、30キロまで成長できるマグロが2000匹ぐらいまで増えるんですよ。ざっと600倍以上ですからね。
テリー みんなが木村社長みたいに未来のことを考えてくれればいいけど、中国ってそこまで考えなさそうじゃないですか。
木村 中国の方も、きちんと話せば対応してくれますよ。インド洋でルールを守らない40隻以上の船の漁獲をやめさせましたし、どうすれば日本が資源を増やし、質のよいマグロを安定して確保できるか、今も水産庁と話し合っているんですけどね。
テリー 木村社長、偉すぎますよ。
木村 ただ、水産庁にも問題がありましてね‥‥、「日本のマグロ船は日本人が乗らないとダメ」「給料は○万円以上じゃないとダメ」とか、とにかくルールが多いんです。それに比べて中国や台湾、インドネシアは1人5万円で雇っちゃう。日本人は平均30万~50万円ですから、同じ人件費だと向こうは10倍雇えるわけです。それでは、漁獲量に差がついて当たり前ですよ。そういうところも含めて、いろいろと改善できるといいなと思っているんです。
テリー マグロ以外の魚はどうなんですか。
木村 同じようにやれば、必ず増えていきますよ。大きな海は、世界の人たちの生け簀なんです。
テリー さすが、発想がでかいですね(笑)。
木村 いや、大きなことは何も考えてないですよ。ただただ、寿司を世界の皆さんに食べていただいて、喜んでいただきたい。資源を増やすことも、寿司の普及も、全てそのためですから。そういうことに邁進していきたいと思っています。だからこそ、一つだけ気になることがあるんです。
テリー 何ですか?
木村 世界的に炭素マグロというのが流行しているんですけど、これを禁止にしたい。古いマグロに一酸化炭素を注入すると、赤色を保つことができますが、味は確実に落ちている。そんなものを使って寿司が普及されるのが、私には我慢できないんです。
テリー それは確かに怖いですね。
木村 和食の故郷である日本から、そんな粗悪な素材を使わないように発信していかなくてはいけません。