「今年、我が党が何を目指すのか。ひと言で言えば、存在感を示すこと。連立内野党の立場で、自民党に注文をつけることが多くなるのは当然のことだ」
こう話すのは、公明党幹部。「注文をつける」とは、穏やかではない。安倍政権にとって、政権運営で大きな痛手となりうるからだ。
だが、それほど今の公明党には深刻な事情がある。
昨年秋の総選挙──。自民党圧勝の陰で公明党は大敗と言ってもいい結果に終わった。獲得できたのは小選挙区・比例合わせて6議席減の29議席。特に、比例は苦戦した。得票数は約697万票だったが、00年以降、初めて700万票を下回ってしまったのだ。
この700万という数字は公明党の支持団体「創価学会」の基礎票。そこから選挙運動によって、F(フレンド)票を得て800万以上が目標とされている。
「700万を割った原因は明らかです。安保などの政策が自民党寄りになって、公明党らしさが消えてきたことで、なかなか票が広がらなかった。(選挙運動の主力となる)婦人部は平和という言葉に敏感ですから。リベラルなF票だけでなく学会票すら固められなかった」(東京地区の学会幹部)
また、来春は公明党が重視する統一地方選挙がある。地方に根を張っていることが党全体の情報収集力や組織力の基盤になっていることから、国政選挙並みに力を入れているのだ。
党勢挽回のためには、今から自民党と一線を画し、公明党らしさをアピールするしかないということだ。
総選挙直後にはさっそく、山口那津男代表が韓国と中国を訪問。目下、慰安婦問題で日韓合意を覆す韓国との関係は閉塞感が漂っている。そこで公明党が積極的に動くことは存在感のアピールとなる。しかも、中韓トップと会談後、北朝鮮に対して圧力一辺倒の安倍首相に「対話が必要」と注文をつけた。
前出・公明党幹部はこう言う。
「今年の国会のテーマは、北朝鮮の脅威への対応として巡航ミサイル整備など敵基地攻撃能力を持つべきかどうか、つまり専守防衛が議論のテーマになる。安倍首相には悪いが、平和の党らしく慎重姿勢を示すことになるだろう、安保の議論では自民党にくみしない」
安保や外交だけではない。公明党らしさを示すために最もわかりやすいのは、憲法改正への慎重姿勢だ。山口代表は新年のテレビ番組で「(党内で)何がふさわしいかの議論はまだ十分に行われていない」と性急な改憲を牽制。公明党がブレーキを踏めば、憲法改正の発議に必要な議席3分の2を確保することに赤信号がともる。
「今後、政策や国会運営など、あらゆる場面で公明党は独自の主張をしてくる。安倍政権は相当、気を遣うことになるだろう」(自民党ベテラン議員)
すでに、公明党の独自主張は地方から始まっている。公明党の女性地方議員らが、2020年の東京パラリンピックに着目。新たな福祉政策やバリアフリーの予算化を目指すプロジェクトを立ち上げる準備に入っているという。
「公明党らしさは福祉や社会保障。むしろ予算案では自民党にこちらの主張を呑ませるつもりで進めていく」(都内の地方議員)
いよいよ通常国会も始まった。安倍首相にしてみると、公明党の動きに気が気ではないはずだ。北朝鮮と安保、そして悲願の憲法改正。議論の主題のどれもが、事情を抱えた公明党との関係をどう築くかで、風向きが変わってくる。
連立政権内の距離感は慎重を要するものなのだ。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。