なぜ今、解散なのかという疑問が解消されぬまま、野党分裂のドタバタ劇が続き、嵐のように総選挙は過ぎ去った。ようやく国会論戦が幕を開けたが、期待するほどの白熱さはなかった。野党各党の“デビュー戦”である代表質問は自己アピールが目立ち、安倍首相の答弁にも目新しさはない。こうした政治状況を国民はどう見ているのか。
今も地元駅前に立ち、街頭演説を続けている自民党の中堅議員は、
「あんたはいいが、安倍首相はダメ」
と、通行人から選挙前と変わらない声をかけられるという。一方、総選挙で躍進した立憲民主党の議員もこう話す。
「地域の会合に参加すると、『筋を通したと思うが、はたして政権交代できる野党のかたまりを作れるのか』と厳しく言われます」
与野党双方に対する迷いやイライラにも似た感情が国民の中に厳然と渦巻いているのだ。それが如実に数字となって表れている。
私がコメンテーターを務めているフジテレビの「みんなのニュース」が、FNN(フジニュースネットワーク)の調査結果を報じた。11月11日、12日に実施した世論調査だったが、実に興味深い結果となった。
まず、安倍内閣の支持率は「支持」が47.7%、「不支持」が42.4%。総選挙後の日米首脳会談など、安倍外交が奏功して、支持が不支持を上回った。
ところが、来秋の自民党総裁選で安倍首相の3選については、「望ましい」と答えたのは41.5%。「安倍首相以外の選出が望ましい」が51.9%となった。選挙戦前に比べて挽回した内閣支持率とは矛盾した数字が出たのだ。安倍首相個人に対する信頼感は戻っていないということになる。
対する野党にも国民はスッキリしていない。立憲民主党の政党支持率は自民党に次ぐ2位で15.3%。確かに、野党で二桁の支持はきわめて高い。しかし、立憲民主党が単独で政権交代可能な政党になるかどうかについては、「思わない」が74.5%に上っている。
こうした国民のジレンマは、政策に関する世論でも見られた。代表質問で唯一の盛り上がりを見せたのは憲法改正についての議論ではなかったか。メディアも総選挙以降、憲法改正を重要な課題として取り上げてきた。改憲勢力が議席の3分の2を超えるのか、と‥‥。だが、さして国民の関心は高くなかったのかもしれない。
憲法改正について「議論を促進すべき」と答えた人は61%に上ったものの、「最優先課題」を尋ねると、異なる結果が出たのだ。
最優先課題の1位となったのは、年金・医療などの社会保障で25.4%。2位は19.1%を占めた雇用問題・経済政策となり、3位は教育費無償を含めた少子化対策(14.8%)だった。
肝心の憲法改正はというと、なんと8位。しかも、たったの2.8%である。民意が求めているのは、憲法改正や安保政策ではなく、将来の不安解消という身近な問題なのである。
民意と永田町のズレを政治家は認識しているのか。
「森友・加計問題以降、安倍首相への不信感が高まったままで、底辺にある国民の不満は消えていない。野党がだらしないことで助けられている。選挙には勝ったが、何か一つでも火種から炎が上がれば‥‥。常に不安定さを抱えているのが今の政治状況と認識している」(自民党ベテラン議員)
永田町が国民世論に適切に対応できなければ、間違いなく政治不信は増長される。そして、政局へと転換することも、十分にありうる話なのだ。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。