北朝鮮が開発した大量破壊兵器などを売却・転売している国は多数存在する。
「代表的なのがシリア。シリアでは昨年4月、アサド政権が猛毒の神経ガス、サリンを使用して多くの市民が犠牲になり、米政府が武力攻撃で制圧しました。実はサリンを製造したシリア科学調査研究センターは、北朝鮮にとって最大の軍事顧客。つまり、北朝鮮はこの惨劇を引き起こした共犯者でもあるわけです」
09年9月、韓国で中国からシリアに向かうコンテナの中から、8000着の化学防護服が押収された。さらに同年11月にも、シリア向けコンテナの中からガスマスク、1万4000着の化学防護服などが押収されている。だが、シリア政府は関与を否定。中ロも「武器および関連物資の輸出を禁じた安保理決議違反に該当しない」と擁護に回り、結局、国連安保理によるシリアへの制裁が実行されることはなかった。
北朝鮮は内戦や武力紛争が続くアフリカや中東でも、旧式ソ連製戦車や潜水艦といった「賞味期限切れ」のような兵器の販売・修理ビジネスを行っている。
「コンゴ共和国では軍事基地の中にバラックを建て、北朝鮮から派遣した20人ほどの技術者が缶詰め状態になって工作機械を使い、旧ソ連時代の戦車や装甲車などのパーツを調整、補修していました。しかも北朝鮮はパーツだけではなく、米や医師なども送り込み、敷地内で全てが完結するようにしていたんです」
外部から遮断された工場内で、ひたすら工作機械に向かう労働者たち。その姿は、光を浴びない地の底でただ女王蟻のために働く、働き蟻そのものだったのではないか。その逆に、北朝鮮に海外の技術者を招聘し、武器開発に加担させているケースもある。例えば、ウクライナだ。
「北朝鮮は昨年、中距離弾道ミサイル『火星12号』と大陸間弾道ミサイル『火星14号』『火星15号』の発射に相次いで成功しましたが、それらのミサイルエンジンの原型と思われる旧ソ連製『RD250』を作ったのが、ウクライナ東部にある国営企業でした。弾道ミサイルのエンジン構造はきわめて複雑で、仮に北朝鮮のスパイがエンジンの設計図を盗んだとしても、そう簡単に作れる代物ではない。隣国のベラルーシに赴任していた北朝鮮外交官が足しげくウクライナに通い、引退した技術者や労働者を探して平壌でのセミナー講師として招聘し、ミサイルの機密情報を盗もうとしていました。弾道ミサイルのエンジン製造には、ウクライナかロシアの技術者を獲得した可能性が高いと思わざるをえません」
「国家プロジェクト」という名の下、自国民を海外のタコ部屋に軟禁して働かせ、海外の有能な技術者をスカウトし、「死のビジネス」に加担させる‥‥。そんな映画さながらのストーリーが展開されていたのである。ただ、古川氏いわく、それでも侮れないのが北朝鮮の技術力だという。