「2年後の東京五輪へ向けてムードを盛り上げるためにも国民栄誉賞はアリだ」
こう話すのは、自民党幹部。平昌五輪の男子フィギュアスケートで羽生結弦が金メダルに輝いた週明け、永田町では国民栄誉賞の話題で持ちきりになった。男子シングルでの五輪連覇は66年ぶりの快挙。それは国民栄誉賞に十分に値する。だが、政治家が浮かれてばかりいてはいけない。
今回の平昌ほど政治と結びついた五輪はなかった。開幕直後、北朝鮮はいわゆる「ほほえみ外交」を展開。南北融和路線に前向きの文在寅大統領ら韓国政府が後押しし、土壇場で北朝鮮がキャンセルしたが、北朝鮮使節団とアメリカのペンス副大統領らとの「極秘会談」計画まであった。北朝鮮が日米韓の連携にくさびを打ち、圧力一辺倒の日本は翻弄されかけていた。
それを考えると、東京五輪で、いったい北朝鮮はどんな行動に出るのか。韓国の対応に変化はあるのか。そして、アメリカ、中国やロシアはどんな姿勢を示すのか。日本は東京五輪までに、あらゆる状況を想定して政治的な備えをしなければならないのだ。
そもそも、スポーツの祭典と政治は無関係という五輪の精神がある。今回の開幕前後の北朝鮮の動きは五輪の政治利用として非難されてしかるべきだが、それを許す土壌が国際オリンピック委員会(IOC)にはある。というのも、IOCは最大の目標として、五輪を持続可能なイベントにすることを掲げているためだ。スポーツ議員連盟の自民党ベテラン議員が言う。
「近年、五輪は施設建設だけでなくテロに対する警備などで多額の費用がかかる。そのため、開催地として手をあげる都市が減っているのが現状だ。このままでは五輪自体の存続も危うい。そこで、IOCのバッハ会長は『アジェンダ2020』の中で、既存施設の使用や複数の都市での共催などの提案を積極的にしています」
そうした中、五輪終了後にバッハ会長が北朝鮮を訪問することが発表された。北朝鮮と韓国がともに訪問を打診した結果だった。
「五輪存続のためなら、バッハ会長は政治をも利用するリアリストということでしょう。平昌は北朝鮮が参加したことで『南北統一』ムードが高まり、五輪は世界の注目も浴び、それなりの盛り上がりも見せた。20年の夏季五輪は東京、22年の冬季が北京と3大会連続してアジアが舞台です。しばらくは五輪開催成功のカギを握るのは北朝鮮の動向と判断したのでしょう。それで、みずから出向いて、北朝鮮と信頼関係を築くつもりなのでは‥‥」(前出・自民党ベテラン議員)
このままバッハ会長が五輪存続を優先し続ければ、北朝鮮はしばらく五輪を外交カードとして使ってくるだろう。その危険性について、外務省OBが憂える。
「日本が核開発、ミサイル発射を巡って経済制裁を続けた場合、北朝鮮が東京五輪に参加しないと言いだす可能性もある。だからといって、経済制裁を弱めるという判断はできない。一方で、北朝鮮は韓国と合同チームを作って、南北統一に日本が水を差しているという構図にして、プレッシャーをかけてくることも考えられる。対応いかんで、五輪の成功かどうかでなく、日本の外交そのものが世界で批判を受けるかもしれない」
平昌で日本人選手のメダル獲得は喜ばしい出来事に変わりはない。だが、日本政府は喜んでばかりいられないのも事実。平昌の閉幕は、東京五輪を巡る外交戦略の幕開けでもあるのだから‥‥。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。