──昨シーズン最下位のヤクルトは、野村さんの愛弟子である宮本慎也ヘッドコーチが就任しました。
野村 ああ、少なくとも私は期待してますよ。非常に理にかなった野球をするし、しゃべることもちゃんと理論がしっかりしてる。ただ、彼も俺と一緒で、処世術がまったくダメなんだよね。さっき名前の出たラミレスなんかもそうかもしれないけど、非常に日本人的というか、お世辞と世渡りのうまさで監督になる連中が多すぎる。12球団の監督の共通点は、「ごますり」が多いんだよ。監督の人材が球界の一番の問題かもしれんね。
江本 今は野村監督みたいに理論派で説得力のある監督はいないですよね。もう一つ、監督に向いてるのはコワモテの人ね。星野さんみたいな。ところが、今はどっちつかずの中間の監督が増えましたね。「この人、どういう野球するの?」っていうのが見えない。
野村 監督の資質という話で言えば、私は阪神に3年いましたけど、辞める時に久万オーナーに「誰かいい監督いませんか」と言われたんですよ。でも、阪神という球団は非常に難しい。
江本 野村監督でもそう思いますか。
野村 何が球団をダメにしてるか? 担当記者とファンですよ。遠征行ってもどこ行っても、ファンやら記者に引っ張り出されて選手がホテルにいないんだから。これには参ったね。人気先行の典型的なチームでしたよ。だからこう言ったんです。「怖くて厳しい監督がいいですよ」。選手に言うこと聞かせられないからね。最初に推薦したのは西本幸雄さん。あの人は口下手で、手が出るほうが早いから。
江本 鉄拳制裁(笑)。
野村 そうそう。でも、実は私に頼む前に西本さんには断られてたんですよ。体調が悪くて、一緒に連れてきた医者から「あんたら、西本さん殺す気か!」と言われたと(笑)。そうするともう、星野しかいないですよ。「賭けてもいい。二つ返事で受けますよ」と言ったら、あとで「野村さんの言うとおりでした」と。星野は俺に感謝せんとな。
江本 金本もちょっとコワモテの気がありますから、そういう意味ではいいかもしれませんね。星野さんほどではないけど。でも、苦労してると思いますよ。去年も、若手を使おうとしたけど、結局、活躍したのはベテランの福留、糸井、鳥谷でしょう。巨人も同じですけど、やっぱり勝つことを求められるから、若い戦力じゃなくてFAでヨソから確実な戦力を獲ってこなきゃいかん。若い戦力はなかなか育ちませんよ。私が優勝候補にしたのは、ベテランが健在なうちに若手とかみ合わないと、しばらく優勝が遠ざかるだろうと思ったからでもあります。
野村 しかし広島は、昔から選手を育成するのがうまいねえ。お金がないから育成するしかないのかもしれんけど。
江本 歴史上、FAで他球団から選手を獲ったことがないですからね。今の広島の強さは、若手がうまく育ったからというのは間違いない。ただ、15年連続Bクラスだとか、成績を球団から問われなければ、そりゃ選手は育てられます(笑)。横浜の筒香だってそうですよ。中畑は監督就任のシーズン前に言ってました。「チームの成績は問わない。筒香一人だけを育てるから」って。そしたら、やっぱり育ちましたから。1軍で若手を使って、勝ちながら育成する、なんていうのは絶対にできないですよ。
野村 でも広島は、育てたらすぐ、FAで持っていかれるからなあ。そこがかわいそうなところだな。
野村克也(のむら・かつや) プロ野球史上初の捕手三冠王にして、安打、打点、本塁打、出場試合数のいずれも歴代2位の記録を持つ。南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督を歴任し、球界随一の知将として輝かしい成績を残した。
江本孟紀(えもと・たけのり) 70年に東映フライヤーズに入団。翌年、南海に移籍すると野村監督に才能を見いだされ活躍。プロ通算113勝で81年に引退する。92年から参議院議員を2期12年務め、現在は独立リーグ・高知ファイティングドッグス総監督。