プロ野球も無事に開幕を迎えたが、引き続き御大二人の舌鋒は止まらない。お互い、時に体調面など“男の弱味”を吐露する場面もあるが、そこはアッパレ、百戦錬磨。返す刀で周囲を笑い飛ばす怪気炎を連発するのだ。
──野村監督、昨年末の沙知代さんの件は、ご愁傷さまでした。
野村 びっくりです。その日は、ダイニングで座ってテレビを見てたんですよ。隣の部屋にいた僕にお手伝いさんが、「奥さんの様子がおかしいですよ」と言いに来てくれて。急いで行くと、テーブルに頭を乗せて突っ伏していたから、背中を支えて「どうした?」って聞いたら、「大丈夫よ」って。これが最後ですよ。普通じゃないから、すぐに救急車を呼びましたが、来た時にはもう意識がなかった。あっけない最期で。ただこっちはもうびっくりするばかりですわ。
──1月25日に行われた「お別れの会」では、江本さんが発起人を務められました。
江本 いや、大勢いるうちの一人という感じでね。端っこのほうにちょっと名前があるだけですよ。
野村 みんなに協力してもらって。まあ、サッチーも喜んでるでしょう。いろいろありますけど、今はあらためて、男の弱さを痛感してます。本当に、男って弱い。
江本 そう言われると、男はみんなそうですよね。
野村 まず、食事にしたって何にしたって、生活がいろいろと不便ですよ。それに、奥さんでありながら、マネージャーでもあって、僕のスケジュールを全て彼女が作っていましたから。前の日に、明日は何時にどこへ行く、と教えてくれるんです。僕が、「あんまり先のことはしんどいから言わんでいい」と伝えていたんで、毎日、次の日のことだけ教えてくれました。奥さんがいると何にも思わないけど、いなくなって思うことがいっぱいありますね。
──一方で江本さんは、1月29日の旭日中綬章受章記念の祝賀会で、胃ガンの手術を公表されました。
野村 そうだよ。体調大丈夫か。顔色が悪いんじゃないか。
江本 いやいやいや、大丈夫ですよ。悪かったら寝込んでますから。パーティーには監督も来ていただいて。大変な時期やったと思うんですが。
野村 こっそり入院してたらしいね。全然知らなかったよ。
江本 こっそりというか‥‥(苦笑)。人に言うもんでもないんで。
野村 ああ、そりゃそうだ。
江本 見舞いに来てもらえば治るもんでもないですから。まあ、60歳超えれば二人に一人はガンでしょう? 患ったからって何にも不思議なことはないですよ。
野村 胃ガンになるのは、何か原因があるの?
江本 食いすぎですわ。
野村 お前、そんなに食ったっけ?
江本 僕はめちゃくちゃグルメですから(笑)。たぶん、ここまで食わなきゃ、家が一軒くらい建ってたんと違いますかね。
野村 そんなだったか。
江本 酒は飲まないし、たばこも吸わないでしょ。もう、食うしかないじゃないですか。だから食い意地が張ってるんです。
野村 そりゃいい趣味だ。
江本 手術をしたのが去年の6月ですし、もうすっかり回復してます。明日から仕事でアメリカに行けるぐらい元気ですから。
野村 そりゃ何よりだ。性格が悪いのは、そう簡単には治らないだろうけどね。
江本 それはもう、お互いに不治の病ですよ(笑)。
野村克也(のむら・かつや) プロ野球史上初の捕手三冠王にして、安打、打点、本塁打、出場試合数のいずれも歴代2位の記録を持つ。南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督を歴任し、球界随一の知将として輝かしい成績を残した。
江本孟紀(えもと・たけのり) 70年に東映フライヤーズに入団。翌年、南海に移籍すると野村監督に才能を見いだされ活躍。プロ通算113勝で81年に引退する。92年から参議院議員を2期12年務め、現在は独立リーグ・高知ファイティングドッグス総監督。