──広島とは対照的に、パ・リーグで育成上手と言われるのが金満球団のソフトバンクです。
江本 組織がしっかりしてますよ。3軍が球場を持って独立リーグのチームと試合をしているのはソフトバンクと巨人だけ。
野村 強さの要因は孫オーナーだよ。「金は出すけど口は出しません」と公言してるからね。組織はリーダーの力量以上には伸びないという原則があるけど、オーナーとしては最高だよね。
江本 やっぱり金があるからできることですけど、2軍でも3軍でもみんなピリピリして競争してるから、いい選手だけを上に上げて戦える。日本代表のエースにまでなった千賀だって、育成出身ではい上がったんですから。
──一方で同じような状況のはずの巨人は若手が伸び悩み、育成を理由に村田修一をクビにしました。
江本 まあ、本当の理由はわからないけどね。どうしても巨人は内野手が余るから。守備はいまだに天下一品ですけど、バッティングが衰えたことは否定できないですし。
野村 かわいそうにね。宮本や俺じゃないけど、よっぽど処世術が下手なんじゃないの。
江本 同じ独立リーグでも、僕が総監督をやってる高知に来てくれればよかったのに、栃木なんかに行って(笑)!
野村 本当に野球が好きなんだろうね。普通ならやめますよ。
江本 昔はみんなやめてましたからね。僕と同い年の松岡弘なんて191勝で「もう、あと10勝はできない」ってやめましたから。今は選手生命が長くなったと言いますけど、ちゃんとした成績を残さずにただ長くやるだけなら、誰でもできるんですよ。
野村 というより、巨人に行ったのが間違い。あそこは生え抜き意識が強いから。ヤクルトに広澤っていただろ? FAで巨人に行ったけど、俺は大反対したんだよ。「やめとけ、やめとけ。使えなくなったら即クビにされるぞ」って。それでも、「どうしても出たい」と出ていって、結局、使い捨てですわ。あげくの果てに、ちょうど阪神の監督やってたから、俺のところに頭下げに来たんですよ。それで獲ってやったんだけど、「監督の言うとおりでした」と。そんなの、言われんでもわかってたやろと。
江本 でも、監督のところに行くっていうのは、広澤もなかなか処世術がうまいじゃないですか。
野村 わはははは、そうかもしれんね。
江本 そこで頭を下げに行けない選手は多いですよ。
野村 いやあもう、そういう星の下に私は生まれて、ダメなのばっかりが集まってくる監督人生だね。
野村克也(のむら・かつや) プロ野球史上初の捕手三冠王にして、安打、打点、本塁打、出場試合数のいずれも歴代2位の記録を持つ。南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督を歴任し、球界随一の知将として輝かしい成績を残した。
江本孟紀(えもと・たけのり) 70年に東映フライヤーズに入団。翌年、南海に移籍すると野村監督に才能を見いだされ活躍。プロ通算113勝で81年に引退する。92年から参議院議員を2期12年務め、現在は独立リーグ・高知ファイティングドッグス総監督。