テニスの大坂なおみ選手が、ウィンブルドンなどの4大大会に次ぐプレミア・マンダトリーと称するグループのBNPパリバ・オープンで優勝という大快挙を成し遂げた。
しかも初戦でかつての女王シャラポワ(ロシア)にストレート勝ち。準々決勝で対戦したランキング5位のプリスコバ(チェコ)にも、準決勝で当たったランキング1位のハレプ(ルーマニア)にもストレート勝ち。決勝の相手カサキナ(ロシア・18位)もストレートで圧倒と、まったく見事な完璧な優勝だった。
この調子なら間違いなく4大大会(全豪、全仏、全英、全米)でもいずれ優勝するだろうし、1997年生まれの20歳という若さなら、かつてのナブラチロワ(チェコ)やグラフ(ドイツ)、そして現在のウィリアムズ姉妹(アメリカ)のように、「大坂なおみの時代」を築く選手にもなれるに違いない。彼女のテニスは、そんな輝かしい未来を予感させるほどの圧勝だった。
彼女のプレーはパワフルなサーヴィス、力強いストロークなど、パワー・プレーが賞賛されている。が、それ以上に素晴らしいのは、そのパワフルなショットが、相手の予測不可能な方向に飛ぶことだ。つまり彼女は、まったく同じフォームで、右へ左へ、前へ後ろへ、完全に打ち分けることができるのだ。
だから相手選手は、彼女の放ったスピードのあるボールに、手を伸ばしても追いつけない、というのではなく、まったく手も足も出ない状態で呆然と見送ることになってしまう。ちょうど一流の投手が、速球と変化球をまったく同じフォームで投げ分けることができるように、大坂なおみ選手も、あらゆるコースへ、あらゆる種類の打球を放つことができるのだ。
これはネット・スポーツ(テニス、バドミントン、卓球、バレーボールなどネットを挟んでボールを打ち合う球技)の選手にとっては最大の決め手となる要素で、相手は大坂選手の打球に対して反応する最初の一歩の踏み出しが遅れ、おまけに速く力強いショットを放たれると、もう手も足も出ない状態に陥るのだ。
そんな大坂なおみ選手の将来には大いに期待したい。が、それにしてもテニスのようなネット・スポーツは、考えようによっては残酷きわまりないスポーツとも言える。何しろ、相手選手の予測する場所とは反対の場所ばかりへと、ボールを打ち込み合うのだ。
しかも、テニスもバドミントンも卓球も、試合前のウォーミングアップは相手選手と打ち合う。相手の打ち返しやすいボールを(楽しそうに?)打ち合い続ける。それが一転試合となると、相手の一番嫌がる場所へ、一番打ち返し難い場所へと打ち込み続けるのだ。
だからネット・スポーツの試合後の選手たちは、ネットを挟んで軽く握手するだけ。ほとんど目も合わさず、負けた選手は、こんな嫌な奴の顔は二度と見たくない、とでも言いたげな表情をしている。
ボクシングやラグビーなど、相手と激しく接触するコンタクト・スポーツは、それとまったく逆。試合前は相手を激しく睨みつけ、ぶちのめしてやると言いたげな表情だが、試合後はノーサイド。顔面から血を流しながら相手と抱き合い、相手を讃え、ラグビーなどでは汗にまみれたユニフォームを交換したりもする。
仲の悪かった相手とスポーツを通して仲良くなるのがボクシングなどのコンタクト・スポーツなら、仲良くボールを打ち合っていた二人の仲が悪くなってしまうのがテニスなどのネット・スポーツ‥‥というのは言いすぎだろうが、そんな目で見てみると、スポーツも、より興味深く楽しめますよ。
玉木正之