「原因究明や再発防止などの職責を果たす。辞めるつもりはない」
麻生太郎財務相は国会での追及にこう応じた。森友学園の国有地払い下げに関する決裁文書を財務省が改ざんしていた問題で、トップとして全てのケリをつけるというのである。
そういうわりには、予算委員会で野党のヤジに対し「やかましいなあ」とにらみつける。さらには、辞職した佐川宣寿・前国税庁長官を呼び捨てにする様子も報じられた。そのため、自民党内からも「態度が悪い」「あれではマイナス」との声が出るほど、麻生氏の評判はすこぶる悪い。
悪評を買ってまで、大臣の座にしがみつく麻生氏の本意とはいかなるものか。
「むしろ麻生氏本人は、佐川氏が辞め、財務省の調査結果を公表したあと、早い段階で辞めようとハラをくくっていたと思います」
そう話すのは、麻生氏をよく知る自民党ベテラン議員。地位に固執せずに辞任することで、
「この問題を財務省レベルで収め、安倍政権を守るためにも副総理でもある自分が辞めることで幕引きを図ろうという狙いがあった」(前出・ベテラン議員)
ところが、麻生氏はすぐに職を辞することはなかった。それは安倍首相から強く慰留されたためだ。麻生派議員がこう続ける。
「麻生氏は書き換え問題が発覚してから2度、安倍首相とこっそり会っています。その時に『もう少し落ち着くまで辞めないでほしい』と懇願されたというのです。しばらくは国会で野党の追及が続く。そこで麻生氏が辞めてしまえば、質問は全て安倍首相に直に投げかけられる。つまり、盾になってほしいということでしょう」
辞めても辞めなくても安倍首相のため、ということになる。そうまでして、麻生氏が安倍政権を守ろうとするのは、過去の出来事に起因している。
麻生氏が首相だった09年春から夏にかけてのことだ。麻生政権は低支持率から挽回できず、衆議院の任期も迫っていた。当時、国民の支持を得た民主党に政権を奪われる寸前だった。
そんな時、首相公邸に毎日のように通い、麻生氏を励ましたのが、現在の安倍首相と菅義偉官房長官だったのだ。内閣改造の案を作り、解散時期の助言など麻生氏を支え続けた。この恩を忘れていないのだ。
「『いずれ安倍政権ができたらオレは最後まで全力で支える』と語っていたほど、麻生さんは義理堅くて情が深い。どうせ辞職するなら、野党の追及を終わらせる『最終カード』に自分がなろうと考えてもおかしくはない」(前出・ベテラン議員)
ただ、きれい事だけで終わらないのが永田町である。麻生氏の言動を、自民党幹部はこう深読みしてみせる。
「麻生氏がこの件を引き際にすれば、安倍首相にも義理を果たし、支え切ったという実績は残る。たとえ無役になっても、第二派閥の会長ですから、9月の総裁選に影響を与えるキングメーカーとして再出発も可能。このまま安倍首相と二人三脚で進み、総裁選で安倍3選になんてなったら、麻生氏はさらに3年間も安倍政権を支え続けなければならない。年齢を考えても、政治家の集大成として成し遂げたいこともあるだろうから、ここで安倍首相と離れるのは一つのチャンスでもあるわけで‥‥」
追及の矢面に立つのが麻生氏であれ、安倍首相であれ、もはや国民の厳しいまなざしは変わらないだろう。安倍政権が改ざんの真相を明かすのが最優先。首相や副総理たちの展望など二の次の問題でしかないのだ。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。