「支持率は底を打った。証人喚問で『政治の関与はなかった』と証明されたことの成果だ」
こう話すのは安倍首相を支える自民党中堅幹部。財務省理財局長だった佐川宣寿氏の証人喚問後の世論調査を見ての感想だ。3月31日~4月1日に行われた共同通信の調査で内閣支持率は42.4%。喚問前から3.7ポイント上昇したことを受けての発言である。
森友学園への国有地売却を巡る公文書改竄は、なぜ起きて、誰が指示したのか。その点を佐川氏は「刑事訴追のおそれがある」と何も答えず、いまだ真相は藪の中。でも、安倍首相の関与だけは「一切なかった」と明言している。野党から「官邸との間ですり合わせがあったのでは」と指摘されるほど、あざとい質疑が奏功し、「支持率は底を打った」と言いたいのだろう。
だが、決してそうは思えない。安倍政権の“病巣”が取り除かれてはいないためだ。
森友学園だけでなく加計学園、さらには防衛省の日報隠蔽‥‥。持ち上がった諸問題を冷静に見ると、全てに共通点がある。それこそが“病巣”である。
自民党ベテラン議員がこう指摘する。
「為政者は『自分に近い人はより遠くへ、遠い人はより近くへ』とするのが鉄則。首相になった瞬間に、友人には『悪いがお前とは、しばらく距離を置く。親友であることに変わりはない。でも、これからは国民全員と等しく距離を保たなければいけない立場になる。そして、厳しいことも言うだろう。そんな時に個人的なつきあいをしていたら、信用を失ってしまうから』と言うべきです。真の友なら『わかった。国のために頑張れ』となるはず。なのに、安倍首相ときたら、逆の行いをしている。“おともだち”を常に近くに置いてきた」
確かに、森友学園前理事長は首相の支援者だった。それゆえ、昭恵夫人は利害の中に無頓着に入り込んだ。加計学園の理事長にいたっては、首相みずからが「親友」と公言している。
「首相は、加計学園の獣医学部新設の口利きはしていないと言うが、それが事実だとしても公私混同を疑われるのは当然。首相になってからも理事長とのつきあいを続けていたんですからね。企業トップでも気をつけるというのに‥‥。組織統治の基本がわかっていない」(前出・ベテラン議員)
自衛隊の日報隠蔽問題も同様だ。当時責任者だった稲田朋美元防衛相の溺愛ぶりは目に余った。稲田氏を行革担当相、党政調会長と次々に抜擢したが、首相周辺から「力量不足」が指摘され、おまけに失言も繰り返した。それでも安倍首相はクビを切らなかった。
「稲田氏を育てると言うなら、ライオンの子ではないが、谷底に突き落とすようにして鍛えるべきだった。稲田さんが日報問題で調査の指示もろくにしていないことがわかったが、完全に安倍首相はナメられていたということ。そうした面も含めた力量を首相は見抜けなかった。身内だけに囲まれて甘えが出ている証拠ですよ」(前出・ベテラン議員)
つまり、「ガバナンス」の欠陥が、政権への「信頼」を失墜させたのだ。
政局があって初めて政治に緊張感が生まれる。そして政権は世論に敏感になり、国民と向き合うようになる。政局とは言えない現状、安倍政権は国民に向き直っているか。
どの世論調査も内閣不支持は依然として支持を上回っている。いまだ国民よりも“おともだち”のほうが近い距離にあるのだろう。5年半余りの安倍政権、最大の問題点は何も解決されていないのだ。
ジャーナリスト・鈴木哲夫(すずき・てつお):58年、福岡県生まれ。テレビ西日本報道部、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリーに。新著「戦争を知っている最後の政治家中曽根康弘の言葉」(ブックマン社)が絶賛発売中。