何か「事故」が報道されるたび、食の安全が叫ばれるが、世の外食店舗の事情を知る庶民はほとんどいない。定食屋、レストラン、居酒屋‥‥我々が親しむ場所では、いかなる食材がどんな処理方法で調理され、テーブルに運ばれてくるのか。食品のプロが暴露する衝撃の舞台裏には、健康問題に直結するおぞましい現実があった。
多数の飲食店がシノギを削る、昼下がりの東京、とあるオフィス街。個人店からチェーン店まで、多くの人気激安店の前には早くからサラリーマンやOLたちの列ができている。
家電メーカーに勤務するAさん(52)は、妻(48)と長女(14)との3人暮らし。10年前に購入した住宅のローン返済もあり、毎月の小遣いは5万円と決められている。
そんなAさんが裏通りで見つけたのが「ランチステーキ定食680円」の看板。おっ、安いじゃないか。さっそく、店に入る。店の中がなんとなく油臭いが、ま、味には関係ないか。10分ほどして運ばれてきたランチは、150グラムのサーロインステーキにポテトサラダ、ブロッコリーの付け合わせ。御飯と豆腐の味噌汁もついている。ランチとしては申し分ないボリュームだ。しかも、肉はとても柔らかく、味もなかなかイケている。
他の店でステーキを食べれば、安くても1000円はするはずだ。コストパフォーマンスに大満足したAさんは「ごちそうさま。また来るよ」とニコニコ顔で店をあとにしたのだった。ところが──。
「食べるな、危険! その不調の原因はここにある。」(幻冬舎)の著者で、食品と暮らしの安全基金・小若順一代表が明かす。
「これはインジェクションといって、肉に剣山のような100本以上の注射針(インジェクター)を刺し、牛脂を注入する方法です。これにより、人工的に『霜降り』が出来上がるんです」
スーパーなどでは「牛脂注入肉」「牛脂注入加工肉」と表示され販売されているのだが、小若氏によれば、
「ステーキになる牛肉もそうですが、柔らかい豚カツも百数十本の注射針を刺して筋切りをしながら、液体を注入して増量されたものが多い。特に冷凍した状態で売られている豚カツは、そういう加工をしたものがほとんどです」
水にリン酸塩や増粘剤、増量剤を入れ、化学調味料や甘味料などで味付けした液を豚肉に注入し、2倍以上に増量したあとで冷凍する。
「肉に含まれる油も半分になっているので、サンドイッチなどに挟む場合には、甘味料のソルビットを添加して爽やかな甘みにしておけば、食べた時にジューシーでおいしく感じるんです」(小若氏)
インジェクションという手法は、今や定番化されており、精肉業界にとって、その存在は否定できない。
「ただし、加工肉を使ったメニューを扱う店には一つの大きな義務があり、それが『加工肉であることの告知』と『焼き方の徹底』です」
そう語るのは「知らないと危ない! ズルい食品 ヤバい外食」(永岡書店)の著者で食品安全教育研究所の河岸宏和代表だ。
「牛肉には、値段に関係なく、肉の表面にはO-157(腸管出血性大腸菌)などが付着しています。一方、内部には菌がありません。だから牛肉はレアでも食べられる。ところがインジェクターを使うことで、牛肉の表面上に付いた菌が肉の内部に入り込んでしまう。つまりレアやミディアムで焼いてしまうと菌が死滅せず、食中毒になる可能性が高まるんです」
そのため、加工肉を扱っている店舗では、厨房で中までしっかり火を通し、客に提供することが重要になる。