中国の後ろ盾を得た北朝鮮は、米国の内情をよく知る韓国の知恵を借り、あらためて米朝会談へ向けての作戦を練りました。
民主主義国家米国の大統領にとって、最大の弱点は選挙です。11月に中間選挙を控えるトランプ政権の支持率はそれほど高くありません。それでいて2020年の大統領選では再選を果たしたい。それならば、それまでの選挙ロードマップに合わせてトランプをたらし込む。これが金正恩、文在寅の基本策略です。
具体的に言うと、IAEA(国際原子力機関)の査察受け入れなど、非核化へ向けたプロセスを示すことでトランプに得点を稼がせ、中間選挙を有利に戦えるようにしてやる。その代わりに制裁解除や経済支援を求める。これが第一段階です。
続いて、核廃棄後に残る高濃縮ウランの平和的な使いみちを2020年までに明示すると持ちかける。そのうえで、両国の連絡事務所設置と平和協定締結を要求する。これが第二段階ですが、問題はこの提案を米国が呑むかどうかです。
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94年の米朝枠組み合意で、北朝鮮は核開発凍結を約束。見返りとして日本、韓国などの負担で総工費46億ドルの平和利用のための軽水炉が建設され、米国を中心に重油も提供された。しかし、02年に、北朝鮮の高濃縮ウラン生産疑惑が発覚。枠組みは事実上崩壊した。
05年の6者協議共同声明でも北朝鮮が全ての核開発を放棄することが盛り込まれたが、その後も核開発は継続された。
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「25年にわたって欺かれてきた二の舞は踏まない」と言っているトランプが、そうやすやすと金正恩の作戦にダマされるとは思いませんが、「完全かつ不可逆的な核の放棄」を一気に実現する手だては限られています。ボルトンが「リビア方式」を主張していますが、はたして北朝鮮が素直に受け入れるか。そこが最大の焦点になってきます。
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トランプ米政権で国家安全保障の政策を取りしきるボルトン大統領補佐官は先月29日、米テレビ番組に出演し、北朝鮮の核廃棄について、過去に核開発を放棄した「リビア方式」を適用する考えを示した。
リビアのカダフィ政権は米英との秘密交渉を経て03年12月、核兵器などの大量破壊兵器開発の即時かつ無条件放棄を表明。IAEAの査察を受け入れ、核兵器開発に関する機材や文書を米国に引き渡した。米国は制裁を解除し、約半年後に国交を回復。核放棄の完全実行後、制裁解除などの見返りを与える先例となった。
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北朝鮮北部の山岳地帯に慈江道(チャングァンド)という地域があります。ここは航空攻撃を受けにくい地帯で、弾道ミサイルの主要展開地域になっていると見られてきました。昨年7月に「火星14」が発射されたのも慈江道の舞坪里(ムピョンリ)です。私たちが得た北朝鮮の内部情報によると、今春以降、この地域に人がいっさい入れなくなっている。米国の地中貫通爆弾に対抗できる地下軍事施設を建設している可能性は十分に考えられます。