一昨年3月、食品関係事業者の間に衝撃が走った。小泉進次郎氏を委員長とした自民党の「農林水産業骨太方針策定プロジェクトチーム」が、全ての加工食品を対象に、原料原産地表示を導入する方針を提示、それが了承されたのだ。これにより20年春から、義務化の対象が「全ての加工食品」に拡大する。
だが、「そうなれば悪徳業者による食品偽装が再燃する危険性がある」と指摘するのは「食の安全・安心財団」常務理事の中村啓一氏だ。中村氏は元農林水産省消費安全局食品表示・規格監視室長。通称「食品表示Gメン」2000名のリーダーとして雪印、ミートホープ、事故米、ウナギ偽装事件などの総指揮を執ってきた「ミスターJAS」である。以下、中村氏による「食品表示」にまつわる現状解説を聞こう。
「当時、食品表示問題を担当していたのは農林水産省と厚生労働省でしたが、原料原産地表示の枠を広げようという議論は昔からあった。でも、実際に全てを表示するのは不可能なので、両者で協議をしていくつかルールを作った。それが加工度が低く素材が製品に影響するもの、メインの使用原料が5割を超えるものなどに表示義務を課すということだったんです」
96年にJAS法により、輸入量が多く品質格差の大きいショウガ、ニンニク、里芋、ブロッコリー、椎茸の5品目に表示が義務化され、98年には4品目を追加。その後、食肉、水産物を含む全ての生鮮食品に原産地表示が義務づけられ、00年からは一部の加工食品の原料原産地表示が追加されることになった。
「とはいえ、そもそもこの制度は消費者のためのものではなく、輸入が急増して国内の生産者が打撃を受けるのを防止しようとスタートしたもの。特に01年頃に中国から集中豪雨的輸入が始まったことにより、『これは中国のものですよ』と示すことで国産指向に誘導する背景がありました」
つまり国は、日本人が潜在的に持つ、中国に対する政治的な嫌悪感と中国食材への不信感をうまく利用し、苦境に立たされつつあった国産品の消費につなげようと考えたわけである。
「だからウナギのかば焼きは対象だけれどアナゴは対象ではない、という変な形になった。でも、時の流れとともに、さすがに変だよね、ということでルール化することに。で、枠を広げる検討会がスタートしたんです」
結果、農林部会長の進次郎氏の鶴の一声で、全ての加工食品への原料原産地表示が決定。
「そもそも日本の自給率は39%で、6割は諸外国からの輸入に頼っています。しかも、大半が中間原料なので、もとをたどってそれを表示することは不可能」
中間原料とは、原材料となる食材が仮にアメリカ産でも、日本に持ってきて加工すれば日本産になる、というもので、
「そこで例外表示を設け、中国の中間原料を使っていても、製造地が国内であれば『国内製造』と表示してもいいことになった。つまり、消費者が手にした食品と表示された情報が必ずしも一致しないことが起こりうる状況になったわけです」