名将ベンゲルが「育成組織の充実化」を助言した
まさに地獄から天国──。昨年、J2からの昇格初年度にいきなりJ1初制覇という快挙を成し遂げた柏レイソル。奇跡の復活劇の要因を探った。
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今年もサンフレッチェ広島がJ1初制覇を達成したように、まさに下克上時代が続くJリーグ。とはいえ、レイソルの優勝はあまりにも衝撃的だった。
09年、16位に沈んだレイソルはJ2降格が決定。だが、翌10年にJ2優勝し、11年はJ1のステージに復帰。そこでまさかの「昇格即優勝」を果たしたのだ。
専門誌編集者が話す。
「智将ネルシーニョ監督の開幕時の目標が『6位以内』でしたからね。チームの柱のレアンドロが封じられ、開幕ダッシュに失敗。ただ、09年のJ2降格決定の際、主力組が全員残ってJ1復帰を果たしたように、チーム力は年々アップし続けていました」
レイソルは05年に初降格を経験しているが、この時は日本代表経験者の玉田圭司や明神智和、矢野貴章、播戸竜二ら主力組がごっそりと抜けた。サポーターからは「とんずらセブン」などと揶揄されたものだった。ネルシーニョ監督のインタビュー本「すべては勝利のために」の著者・田中直希氏が話す。
「(V字復活は)1度目の(降格の)反省を生かしたことが大きい。レイソル愛に満ちた主力が残るだけでなく、09年7月から招聘されたネルシーニョ監督の続投も、シーズン中から既定路線でした」
翌10年、チームの柱となるレアンドロ(11年のMVP)を獲得し、圧倒的な強さで返り咲くが、助っ人の力だけではなかった。田中氏が続ける。
「アカデミー(育成組織)の充実があってこその優勝でした。強化本部ディレクターを務める吉田達磨氏は、現在は独ブンデスリーガで活躍する酒井宏樹らを丹念に指導してきた」
吉田氏は、ジュニアユース時代にMFだった工藤壮人をFWにコンバートして素質を開花させたり、守備的MFの茨田陽生をセンターバックに起用してハートを鍛え上げるなど、次世代を確実にステップアップさせてきた。まさにアカデミー充実の功労者だった。前出の編集者が話す。
「親日家で知られる英アーセナルの名将ベンゲル監督は常々、『国の強さは育成システムしだい』と日本サッカー界に助言。それはクラブチームに置き換えられる。スペインの名門バルセロナは、メッシやシャビ、イニエスタらカンテラ(下部組織)出身選手だけでスタメンを組めるほどです」
黄金時代を築く日も、そう遠くはなさそうだ。