「国内外の臨床データを総合すると、例えば潰瘍性大腸炎の罹患年数が25年だった場合、大腸ガンの累積発生率は、少なく見積もっても15%には達します。中学生の時に発症した安倍さんの罹患年数は、約50年。あくまでも一般論ですが、この場合、大腸ガンの発生リスクは、現時点で30%以上に達していると考えるのが妥当です。しかも、累積発生率は軽度から重度までを含めた全潰瘍性大腸炎患者を対象とした数字であり、重度の患者であればあるほど、ガン化の確率も急激に上昇していきます。罹患年数が50年ともなれば、すでに大腸ガンを発症している状況か、いつ発症してもおかしくない状況、ということになるでしょう」
ではこの場合、どのような治療法があり、予後についてはどうなのか。この元医学部教授が続ける。
「重度で炎症が大腸全体に広がってしまった典型的なケースを含め、標準治療として推奨されているのは、大腸を全て取り除く全摘術です。また、大腸全摘術に際しては、小腸に便をためる袋を造設して肛門につなげるパウチ術なども行われます。しかし残念ながら、術後の生命予後は、全てのステージ(病期)において、あまり芳しくありません。中でも、大腸の所属リンパ節に複数転移のあるステージIII以上の予後は不良です。これは余命を年単位で考えることはできない、つまり、そう長くは生きられない、ということです」
そこで問題になってくるのが、潰瘍性大腸炎の重症度と大腸ガンを発症した場合のステージである。
まずは前者について、潰瘍性大腸炎に詳しい消化器内科の専門医は、
「重症度を診断する指標には、【1】排便回数、【2】血便、【3】発熱、【4】頻脈、【5】貧血、【6】赤沈があります」
とし、次のような推論を展開した。
「このうち、排便回数が1日6回以上で血便が認められ、発熱が37.5度以上か1分あたり90以上の頻脈のいずれかを満たし、かつ6項目のうち4項目を満たす場合に重度と判定されます。安倍総理の場合、これまでのカミングアウト手記などを読むと、これらの条件を満たしている、すなわち、重度の潰瘍性大腸炎の疑いが考えられます。しかも頻回の下痢や強い腹痛などが見られることを考えあわせると、重度よりもさらに深刻な劇症タイプの潰瘍性大腸炎である可能性も推定されるのです」
では、後者のガンのステージについてはどうか。この専門医が続ける。
「安倍総理を診ている慶應大病院における10年までのデータによれば、潰瘍性大腸炎から大腸ガンを発症した患者のステージの内訳は、進行ガン26%、粘膜下層ガン7%、前ガン状態・粘膜内ガン24%となっています。11年以降は治療法の進歩などでガン化するケースも減ってきてはいますが、罹患年数50年に及ぶ劇症タイプともなれば、やがては進行ガンで命を落とすことも視野に入れておかなければならないでしょう」
盟友の麻生氏が漏らしたとされる「最悪の事態」は決して誇張ではないのだ。安倍総理は「命がけ」の3年間を乗り切れるのか。