「暴れん坊将軍」や「大岡越前」、そして「水戸黄門」では最多の68回ゲスト出演を誇る、時代劇に華を添え続ける悪役・内田勝正(68)。怖さと美しさを兼ね備えた“悪”の真髄を聞いた。
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──悪役デビューは、「木枯し紋次郎」(72年)だそうですね。
はい。「偽紋次郎」役をやる予定だった俳優さんが急きょ降りてしまい、その代わりに、背格好が似ていた僕にオファーが来たのがきっかけです。以降、市川崑監督が気に入ってくれて、最終回にゲスト主役にしてくれました。
──市川監督から、悪役の演技指導はありましたか?
「不自然になるから目を剥くな」ということと、「眉間のシワを取れ」と。悪役なので眉間のシワはあったほうがいいかと思いますが、「優しい顔も怖い顔もできる、ギャップがあったほうがいい」と。眉間にテープを貼りシワを取ろうとしましたが、なかなか取れるものじゃないですよね(笑)。
──以降、時代劇での悪役が急増しましたね。
「紋次郎」は新しい時代劇として業界関係者が注目していて、そこでの僕の悪役が強烈だったようで、一斉にオファーが来ました。いちばん忙しい時は2週間で4本撮り、各地の撮影所を行ったり来たり。今考えると恵まれた悪役人生のスタートでしたね。
──時代劇では、どのような悪さをしてきましたか?
越後屋に便宜を図る家老や参謀など、主に「最後に斬られる悪」です。僕の場合は、小悪党ではなく、主役と堂々と対峙できる「悪の華」が求められていました。
以前、ある主役が「若い人が悪役をやると、自分たちがいじめているみたいに思える」と言っていたことがありましたが、悪役は気概が大切なんです。立派な水戸黄門様相手でも、主役の10分の1のギャラでも(笑)、「ただのジジイだ!」と遠慮せずに食ってかからないと主役の強さや格好よさも引き立ちません。
以前、高橋英樹さんに「斬られたら、ちゃんとカメラの前で死んでくれ」と言われたことがありました。僕はカメラの前で大げさに死ぬのは苦手でしたが、確かに、あっさり死んでしまっては区切りがつかない。なるほど、と。
悪役がひどくいじめ、派手に斬られ、一件落着すると、スカッとした視聴者がまた見たくなる。それが時代劇での悪役の存在意義です。
──そんな中でも、お気に入りの悪役はいますか?
現代劇でありますね。誘拐犯役をやった時、悪役らしい表現はないかと考えた僕のアイデアが採用されたことがありました。誘拐した子供から、親からもらったおもちゃを大事そうに抱えているのを奪い取り、踏んで揉みくしゃにして、親と子のつながりを破壊するというシーンです。
殴る蹴るなどの暴力描写ではなく、いかに心情を傷つけるか。正義の味方をやっているわけではないので、どうすれば視聴者から憎まれるか、常に考えていました。
──悪すぎて視聴者から苦情が来たことはありますか?
舞台版「水戸黄門」で僕が舞台に出ると、観客席から「出たよーコイツは悪いヤツなんだよ!」と声が上がります。複雑な気持ちになりますが、称賛と捉えています(笑)。むしろ、以前あるドラマでイイ人役をやったあと、視聴者から「悪役が突然イイ人の役をやるな!」と苦情が来てしまいました(笑)。
──内田さんにとって「悪人」とは?
コンプレックスの固まりで恵まれない人、自分の能力以上に欲望の強い人でしょうか。欲望が強いから、何かに執着し、法を犯してでもどうにかしたいと。そういう意味では、人間的かもしれないね。
一方、プライベートでの僕は、日本俳優連合の副理事長としてボランティアをしています。俳優は、再放送されてもギャラが一銭も入ってこないんです。俳優の著作権における権利の行使に関する働きかけをしています。この年になってやっているのは、悪役とは真逆なんです(笑)。