ニュースを見るためにテレビばかりをずっと眺めていてはいけない。
その理由を前出・松井氏はこう説明する。
「テレビを見続けるということは、長時間にわたって目と耳の両方がテレビに釘づけになるということです。視覚と聴覚を1つのことに集中させてしまうことは、脳を活発に働かせることと逆のことになる。すでに認知症を発症している人は別にして、ちょっとしたもの忘れはあっても健康なら、目と耳は別々に動かしたほうがいい。ラジオを聴きながら別の作業をするというのは、脳を働かせることになります」
ケガをして寝たきりになった老人が身の回りの世話をされるようになったとたんに「ボケ」が進行したという話はよく聞く。できるかぎり脳を働かせる作業を行うことは、脳の衰えを遅らせる効果がありそうなのだ。
そうした観点から、前出・松井氏は「趣味を持つ」ことも重要だという。
「趣味なら何でもいいというわけではないのですが、クリエイティブとまではいかなくても、新しい物を作り出すような趣味のほうが脳を働かせることになりますね。俳句を作るなんていうのは、簡単に始められるし、脳の機能低下防止には役立つでしょう」(前出・松井氏)
とはいえ、これまで無趣味で生きてきた人間にとって、趣味を見つけることは意外と難しい。ましてや、俳句は高尚な趣味にしか映らないだろう。
ところが、自発的な趣味でなくとも、簡単に認知症予防に役立つような趣味もあるという。
「観察研究の結果から社会参加、余暇活動、精神活動がアルツハイマー病の予防や高齢者の認知機能低下の予防に有用であることがわかっています。余暇活動にはコンサートに行くとか観劇、レストランでの食事なども含まれていて、意外と簡単にできることもあるのです」(前出・中崎氏)
これなら、何とかできそうである。久しぶりに古女房を誘ってみるかという気分にもなってくる。いや、どうせなら若いオネーチャンでも誘って、あわよくば‥‥。こんなヨコシマな考えも脳機能低下防止につながるのではと本誌は考えるのだが、前出・松井氏は破顔一笑してこう答えた。
「人間の欲というのはキリがない。でも、欲を持つことは悪いことばかりではない。金銭欲と言うと悪いイメージが付きまとうが、裏を返せばビジネスを成功させようと努力していることになる。金の勘定をしながら、顧客に喜ばれるサービスを作り出すことは脳を懸命に働かせることでもありますからね。他人様に迷惑をかけるほど欲をかくのは論外ですが、人生を楽しむための生きがいにつながる欲なら持ったほうがいい」
意外と身近な場所に、老化した「フリーズ脳」をよみがえらせるきっかけが転がっているかもしれない。