言葉に詰まり、固有名詞がどうしても思い浮かばない──。そんな時、「俺も年だな」と笑って済ませていいのか。オヤジ世代なら誰しも経験するこの「フリーズ状態」は、脳の老化の第一歩。このままでは認知症になるのでは!? そんな不安を抱く読者諸氏のために、本誌が凍りついた脳を再起動させる術を伝授する。
「いや、アレがさ‥‥。えっ、アレって何かって? だからほら、アレだよ、アレ! え~と、アレの名前って、何だったっけ‥‥」
本誌読者にも、こんな会話をしてしまったことがあるのではないだろうか。凍りついたように、次の言葉が出てこない。固有名詞がとっさに浮かばない。年齢を重ねるごとに増える現象ではある。
この現象を「フリーズ」と名付けた築山節氏の著書「フリーズする脳~思考が止まる、言葉に詰まる」(NHK出版刊)が異例のロングセラーとなっている。
同書では、この「フリーズ」という現象を軽度な高次脳機能の低下としている。その原因として、脳も使わなければ衰えていくことをあげている。さらに、人間を人間たらしめる思考の中枢である、前頭葉を働かせる機会を失う場面が多い現代社会の現状を指摘している。
そして、ロングセラーの背景には、多くの人が「自分の脳が“フリーズ”しているのでは‥‥」「認知症が始まったのではないか」と不安に駆られていることがあるのだろう。
脳神経外科医で東京脳神経センター理事長の松井孝嘉氏はこう話す。
「名前が思い出せないというレベルで認知症を疑うのは早計ですね。若い時の体力がいつまでも続かないように、生理学的に脳も若いままでいるはずがなく、加齢とともに脳の神経細胞が減り、確実に衰えます。名前が出てこないぐらいのもの忘れは許容範囲です」
生理的健忘と病的健忘には大きな違いがある。
開業医として認知症治療に当たる中崎クリニック院長の中崎浩道氏が言う。
「もの忘れという観点で具体的に言えば、待ち合わせの約束をしていて、約束の時間に待ち合わせ場所へ行くのを忘れるのは生理的健忘、その待ち合わせの約束自体を忘れてしまうのが病的健忘となります」
ホッと胸をなで下ろした読者もいることだろう。自分は認知症ではなく、ただ脳が「フリーズ」しているだけだと‥‥。
ところが、「フリーズ脳」にも似た「軽度認知障害」(MCI)という概念が報告され、最近では臨床現場にも普及している。このMCIとは、基本的な日常生活に支障はなく、複雑な日常生活動作への障害も最小限にとどまるものの、認知機能が正常とは言えない状態を指すという。
「認知症の診断基準を満たさないけれど、本人や周囲がおかしいと思っている症状と言えます。生理的健忘と病的健忘の境界ということになります。顕著に現れるのは、性格や物へのこだわりです。例えば、お釣りを計算して小銭をきちんと支払っていた人が、急にお札だけで支払うようになって、小銭で財布が膨れてしまうなんてことで気づく方もいらっしゃいます。このMCIの症状を訴えた人の約1割が、そのあとで認知症を発症しているという報告もあります」(前出・中崎氏)