お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志にとって、M-1グランプリ審査員席の“一番右側”が上沼恵美子でなければならない理由はどこにあるのだろうか。
2018年度の同大会終了後、とろサーモン久保田かずのぶとスーパーマラドーナ武智による上沼への暴言動画が波紋を呼ぶと、同じくM-1審査員を務める松本はすぐさま後輩による無礼を直接詫びるべく、大阪へと足を運び、上沼と面会。吉本興業に身を置く愚かな2人の先輩として、そして、大会審査員を要請した者としての筋を通した格好だ。
では、上沼以上に多忙を極めると言っても過言ではない松本が、わざわざ彼女に直接の謝罪をしなければならないほどの事情とはいかなるものだろうか。
「松本がM-1を運営する吉本の重鎮として特に気を配っているのが、いかに“吉本興業以外の視点”を大会に盛り込むかという点でしょう。かつてのラジオ番組『放送室』(TOKYO FM)にて、松本は頻繁に吉本所属芸人のハングリー精神の無さを糾弾していました。というのも、吉本の芸人はテレビ番組への出演が無くとも、大規模な劇場や舞台を豊富に自社で抱えている為、芸人はその出演料だけでも食いっぱぐれないほどの収入を確保できてしまう背景があるようです。一方で吉本ほどの規模にない他事務所に在籍する芸人は、M-1にかけている想いの強さがハンパではなく、松本も過去にラジオで『人力舎は最近頑張ってるよなぁ』『吉本の芸人は劇場だけである程度稼げてしまう』とも嘆いていました。人力舎は、アンタッチャブルやアンジャッシュ、おぎやはぎなどが在籍する、小さいながらも人気と実力を兼ね備えた多くの芸人を輩出している芸能事務所です」(テレビ誌ライター)
つまり、松本は吉本興業所属という強力なバックアップによる恩恵を受けることで、後輩らがぬるま湯に浸かることのないよう、審査員席にはなるべく吉本以外の大物を座らせたいというのが狙いなのかもしれない。それでなくとも、そもそもM-1グランプリとは吉本興業主催のお笑いコンテストであり、公平性や開かれた大会という価値を帯びるためには、やはり大阪という“吉本のお膝元”において、個人事務所在籍ながら女帝にまで大成した上沼の鋭い物言いは大会運営には欠かせない要素である。
松本は自身がレギュラーを務める「ワイドナショー」(フジテレビ系)にて、上沼が審査員を担うことの正当性について「吉本ではない人で、女性目線で、僕より先輩で、当然尊敬できる人はあの人しかいない」とまで宣言。吉本興業に所属していないという点に加えて、上沼には女性からの視点という男性陣の審査員とは異なる独自の解析をも期待できるわけだ。
ここまで説明すれば、久保田と武智がいかに罪深い過ちを犯したのかが十二分に伝わるだろう。
松本人志は、11年に芸能界を去ったM-1グランプリ創設者の島田紳助氏が座っていた席に自分が座ろうとはせず、“一番右側”に相応しいのは上沼恵美子しかいないと確信している。そうなれば、松本が“暴言騒動”後に多忙の中でわざわざ大阪へ出向き、上沼に直接会いに行ったのは、“愚かな後輩”ではなく、他ならぬM-1グランプリを守るためだったのかもしれない。
(木村慎吾)