マムシやサソリがまるごと沈むキョーレツなビジュアルか、はたまた、かの有名な養命酒のごとき滋養強壮イメージか。「薬酒」と聞けば、なにやら体によさそうなことはわかるが、実は自分で簡単に作れて、さまざまな症状が改善するスグレモノだった。さぁ、酒を飲んで健康になろう。
「お客様の相談は、8割がガンについてですね。中には余命宣告をされた方もいますが、実際、ここで過ごすことで、前より元気になられている方がたくさんいます」
なんともびっくりする言葉だが、ここは療養施設でも、最新技術をそろえた病院でもない。発言の主は薬酒研究家、漢方薬膳予防医学指導士にして、一般社団法人薬酒・薬膳酒協会の代表理事である桑江夢孝氏(43)。東京・三軒茶屋駅からほど近い、デルタ地帯と言われる狭く入り組んだ路地の飲み屋街そばに、みずからがオーナー店主を務めるバーを構えている。ウッド調のカウンターとテーブル席があり、カフェとしても楽しめる、落ち着きのある空間だ。
このバーで出されるのは「薬酒」。生薬と呼ばれる薬草を、焼酎やブランデーなどの蒸留酒やワインなどの醸造酒に浸した混成酒のことである。
「薬草が持つ数々の効能と、古来の人の知恵が合体してできたものが薬酒。うちの店では『メディカル・ハーブ・リキュール』と呼んでいます」
冒頭の言を証明するかのように、薬酒によって数々の病気の改善に効果がみられるとして、バーには医師も相談に訪れるという。
桑江氏は06年に「薬食同源」をベースとした薬酒、薬膳酒の専門店をオープン。現在はフランチャイズを含め、全国に26店舗を展開している。
もともと、放送作家の道を志しつつ芸人として活動。あるいはアパレル会社を立ち上げたり、ドリームズ・カム・トゥルーのプロモーションマネージャーも経験したという桑江氏が店を開いた理由は、30歳になる頃、事業に失敗して3つの会社をなくし、身一つの状態になったことにあった。
夜逃げ同然のまま飛び出し、収入はゼロ。住所不定だった桑江氏を受け入れてくれた妻と結婚し、今度こそと気持ちも新たに再出発を決意した時に引っ掛かっていたのが、妻が持つ「脳下垂体腫瘍」だった。ホルモンバランスを崩し、生理がこないため妊娠、出産が難しく、失明のおそれもある難病。仮に妊娠できたとしても、出産時に腫瘍が及ぼす影響で、10人に1人は母体ごと死んでしまうリスクがあるという。
以前に手術をしたものの、腫瘍部分を取り除けないという結果に。外科治療には頼れないが、なんとか妻の病気を治してやりたいと決心した桑江氏は、国内外の情報を求め始める。
「妻と2人で中国、ブラジル、ジャマイカから果てはアマゾンまで、奇跡の治療医と呼ばれる人を探して旅をしました」