桑江氏が続ける。
「その中で興味を持ったのが、中医学がルーツの漢方の力です。中でも『食養』『食療』と言われる考え方に共鳴し、日頃の食生活の中で薬効を取り入れる『薬膳』の勉強を始めて、薬酒を作り始めました。酒に漬けることで植物の成分を抽出しやすくなり、半永久的に保存できるからです」
自家製の薬酒を飲み続けること数年。妻はめでたく第1子を妊娠し、その2年後には2人目もできて、20年間めちゃくちゃだったホルモン値も正常に戻った。腫瘍は消え、難病は奇跡の寛解を遂げたのだった。
「15年間悩まされていた腫瘍が治り、医師に無理だと言われた子供も授かることができた。最初は妻の命を救いたい一心でしたが、この効果を私たち家族だけで独占するのはもったいないなと思って、店を開くことにしたんです。バーにしたのは、病気の大きな根源でもあるストレスを解消する場として、いちばんいいと思ったからです」
オープン時に5種類しかなかった薬酒は今では100種類を超え、生薬の原産地も国内にとどまらず、アジア、南米、アフリカと多岐にわたる。来店した客にはまず体調や病気の症状を聞き、そのやりとりの結果、その人に合う薬酒を勧めている。
「バーテンダーは医師であり、心理学者であり、精神科医である、という言葉があるのですが、お客様を心身ともに元気にしてあげたい。酒の発祥であるとされるリキュールは、もともとが薬酒なんですが、ヨーロッパでは数千、中国でも千種類はあるのに、日本には30種類しかないんです。もっと日常的に薬酒を嗜む習慣を定着させたいですね」
桑江氏自身も日常的に薬酒を摂取することで、20年来の薬アレルギーが改善された。手術が必要と言われた娘の中耳炎も、ニワトコという植物の効能で治った。成人T細胞白血病リンパ腫で余命宣告を受け、終末医療の施設に入るまでとなった母親も、薬草茶を飲み続けているうちに寛解した。
「薬酒は実は誰でも簡単に作れるんです。薬酒のいいところは、素材が身近にあることですね。家の近所を歩いただけでドクダミ、柿の葉、イチョウ、ヨモギ、スギナ、ゲンノショウコなど、生薬になる植物をたくさん見つけることができますよ」
医者いらず、とでも言いたくなる効果を発揮し、高額な材料費も労力もさしてかからないとあれば、これはぜひ試してみたくなる。