別のダフ屋B氏も、変わり行く状況にタメ息をつく。
「若貴フィーバーで相撲が盛り上がっていた時は、1枚30万円以上で転売して儲かったよ。力士にはタニマチがいるから、そこからチケットが流れて安く買っていたんだけど、今は暴力団の資金源になるということで、そのルートがストップされたのが痛かった」
東京近郊だけで生計を立てるのは難しく、地方で人気歌手のコンサートがあれば「遠征」にも出向くのだが‥‥。
「地方は人気歌手のコンサートチケットが飛ぶように売れるんだけどさ、もう昨年なんて警察が会場周辺に張っていて、『近づいたらパクるぞ!』って。2日間働いて1人1万円しか稼げなかった。レンタカー代やホテル代、食費を入れたらむしろ赤字で、行くだけ損だよ。やってらんねえよ」(B氏)
これまでドル箱だったジャニーズのコンサートも転売防止に力を入れるようになり、商売に暗い影を落としている。
「唯一安定して儲けられるのがジャニーズだった。警備も厳しくないから仕事がやりやすかったし、何より定価で買ったチケットが50万円で売れたことだってある。だけど電子チケット(スマホなどの画面がチケット代わり)が導入されてから面倒になったよ。転売のやり方はあるけどさ、電子チケットは座席が書いてなくて、会場に入るまでわからない。高値で買っても後ろの席だったらイヤだからって、買う客が減っちまったんだ」(B氏)
今やダフ屋を業として食べていくのが厳しい中、追い打ちをかける法律の施行。6月以降について、A氏は寂しげにこう話す。
「全盛期は200人以上いたけど、今はその半分以下。これまでは前科や執行猶予のないヤツが最前線で声をかけ、パクられ役になっていたんだよ。パクられてもその間はみんなで稼いで、そいつの取り分も用意できたからな。もうそんな余裕もないし、人員不足で若手もいなくて、『前』があるヤツばかりで捕まるのもムリ。それでもダフ屋しかできないから、手持ちの金が尽きたら、『前』があるのにわざと現場に立ってパクられ、刑務所に行ったのもいてな。見せしめで取締りが強化されるからしばらく様子を見るけど、もう最後かもな。廃業も考えないと‥‥」
切なくも、東京五輪までにダフ屋は完全排除されてしまうのか──。