生活習慣が原因となる高血圧は、これまでも何度か本連載で解説してきました。今週は低血圧について考えてみましょう。
WHO(世界保健機関)では、最高血圧100・最低血圧60(単位はともにmmHg)以下を低血圧と定義しています。低血圧には、立ちくらみやめまい、貧血気味、朝起きられない、頭痛や倦怠感、肩こり、動悸などの症状があり、痩せた人に多くみられる傾向にあります。
では、ここで問題です。低血圧の改善法として有効なのは「運動」と「食事」のどちらでしょうか。
低血圧は、いくつかの種類に分けられます。最も多いのが本態性低血圧で、疲れやすく虚弱体質な人によくみられます。急に立ち上がった時に立ちくらみを起こす起立性低血圧、高血圧治療薬服用による二次性低血圧、食後に血圧が下がる食後低血圧などがあります。
立ちくらみで倒れてケガをする危険性こそありますが、すぐさま命に関わる症状ではないため、病気として重視されておらず、薬の研究もあまり進んでいません。そのため、100種類以上あるといわれる高血圧と比べて治療薬も少ないのが実情です。心臓の代謝を上げる昇圧剤は副作用で頻脈や不整脈を起こしやすく、興奮状態になるため不眠症に陥りやすくなります。
一方、本態性低血圧は最高血圧80・最低血圧50でも普通に働いている人がいます。もちろん顔色は青白く、時々クラクラしてしまうそうです。本来なら、こうした人が薬の服用を必要とします。
血圧は遺伝による影響が比較的多いとされています。痩せており青白い顔で活力のない人、神経質な人に多くみられ、両親が痩せていて神経質だと、その傾向を引き継ぎやすいという説もあるほどです。逆に両親が高血圧ですと、若い頃は低血圧に悩まされていたのに40歳を過ぎて太り始め、高血圧になることも珍しくはありません。特に高齢の方は注意が必要です。
医師の中には、低血圧改善策として、いきなり水中ウォーキングやエアロビクスを勧める人もいます。肉体改善という点では効果はあるものの、いきなり激しい運動をするのはリスクが高いので、ウォーキングや階段の昇降から始めましょう。中でも「第二の心臓」と呼ばれるふくらはぎを鍛えるのは非常に効果的と言えるでしょう。
ただ、低血圧の人の場合、少なめの運動量でも貧血で倒れる危険性があります。そこで、まずは食事から始めるのがベターです。その際に、カギとなる「高血圧治療の真逆治療」こそ最適です。一般的に、痩せている人が多いため、まずは体重を増やすことで症状を改善させるわけです。
具体的には食事の量を増やす、タンパク質を多く摂る、塩分を多く摂るなどが考えられます。ただし塩分の摂り方にはコツがあります。食事の味を濃くすると辛口になってしまうので、1日に大粒の梅干し(20グラム程度)を3つほど食べることをお勧めしています。
同時に、1日2リットルを目安にして、水分も多く摂取してください。お茶やコーヒーを多めに飲むのも血圧を高めますが、治療中はお酒を避けてください。なぜなら、アルコールを飲むと血管が広がり倒れてしまうケースが多くあるからです。高血圧の原因となる喫煙も血圧を高めはしますが、それ以上に害が多く、当然ながらお勧めできません。
また、ストレス解消もキーワードです。改善すべく、気の合う友人との時間を多くしたり、パートナーができたことにより、低血圧がよくなったという例も耳にします。明るく活力的で、日常を楽しく過ごすのも改善方法の一つです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。