徳光は担当していた「ズームイン!!朝!」で、百恵と友和の恋人宣言を聞く。メインキャスターの立場でありながら、つい、個人的な感想をつぶやいた。
「いや、百恵ちゃんと三浦友和では格が違うでしょ。釣り合わないよ」
百恵の引退直前、各局で特番が組まれたが、もちろん日本テレビは「スター誕生!」で、そして「紅白歌のベストテン」を丸ごと引退特番にあてた。徳光は番組の司会者として百恵と向き合うことになる。
「たまたま控え室で百恵ちゃんと2人きりになる時間があったんだよな。そこで、1年前の『ズームイン』でこんなことを言ってしまってごめんなさいと彼女に伝えたんです」
これに百恵は悠然とした表情で答える。
「知っています、2人で見ていました」
さらにうろたえる徳光に、百恵は「大丈夫ですよ」とほほえむ。かつて長らく百恵のマネジャーを務めた小田信吾に「ほかのタレントは生理日までわかるが、百恵だけは心の中が読めなかった」と言わしめた規格外のスケールを感じた。
また、友和が駆け出しだったころに若山富三郎と会話したことも蘇った。徳光が「将来の日本を背負う若手俳優は?」と聞くと、若山が即座に答えたのだ。
「三浦友和だね、芝居に対する打ち込み方が違うよ」
今現在、ヤクザの親分から人情派の刑事まで円熟の演技を見せる友和を見ていると、若山の慧眼に恐れ入ると同時に、あの日の百恵の表情が思い起こされた。
「百恵ちゃんに『結婚したら何がしたい?』って聞いたら、まずフランス語、それからキルトだと。これまで女らしいことを何もやっていなかったのでと答えたのが印象的」
挙式では、百恵と親しい小柳ルミ子が「きれい‥‥」と絶句したように、芸能界でもまれに見る美しい花嫁だった。徳光は芸能界で500組ほどの結婚式に関わってきたが、百恵、五十嵐淳子、そして森昌子の3人が「喜びが伝わってくる美しさ」だったと言う。
百恵から12年後に結婚して芸能界を離れた淳子からは、1年半ほど前に手紙をもらった。
〈お元気ですか? いつもテレビで拝見しております〉
あの桜田家に育った淳子らしい几帳面さがあふれていた。文面で淳子は、芸能界復帰はやんわり否定しながらも、たとえばボランティアのような活動で表に出ることは少なからず願っているようだった。
騒動はあったものの、夫と3人の子供との家庭生活は何ひとつ不和はないように見受けられた。
徳光が歌番組と本格的に向き合い、日テレに危機が訪れ、そして2人が登場した73年─フリーに転身した今も、素直な感謝を口にする。
「番組が作れない可能性もあった日テレを活気づけてくれたのが百恵と淳子。総務や人事に至るまで、当時の社員全員を鼓舞してくれたのが彼女たちなんです」
開局60周年の欠くべからざる“接ぎ穂”であったことを─。