年を取って腰が湾曲する人は少なくありません。この症状は医学的に「老人性円背」と言います。一般的に骨密度の低い女性に多く、骨粗鬆症による圧迫骨折によって、骨折した実感もないまま腰が曲がっていきます。
この老人性円背になると背も縮んでいきますが、ここで問題です。老人性円背に関係なく、年を取ると身長が縮むのは本当でしょうか、それとも気のせいでしょうか。
人間は子供の頃は背が伸びますが、成人以降はしだいに低くなっていきます。40歳以降は10年間で1センチほど縮み、死ぬまでに平均で2センチほど縮みます。
理由としては「加齢による体内の水分減少」や「姿勢の悪さ」が挙げられます。骨折が原因で、最大で8センチ低くなったというケースもあります。「骨粗鬆症による脊髄の圧迫骨折」を起こすと1日で1センチ縮むこともあるので、身長が若い頃より3センチ以上低くなった場合、骨粗鬆症の可能性がありますので、病院を受診してください。
人間の頭部は体重の8%ほどを占めています。体重60キロの人で5キロ前後にもなります。細い首の骨に相応の重量の部分が乗っかり、日々、腰骨までを圧迫しています。つまり成人を過ぎて成長が止まると、頭の重みで背骨がゆっくりと変形していくのです。
もう一つ、人間の体内の水分量は子供で70%、成人で60%、老人になると50%に減っていきます。また、背骨にある椎間板の水分量も20歳の頃に90%ほどあったのが40歳では70%に減り、加齢とともに最終的に60%までに減ります。これによりクッションの役割を果たしている椎間板が薄くなり、重みがかかって身長が縮んでいくのです。
つまり、骨の変形と椎間板が縮みの原因となり、背が少しずつ縮んでいくわけです。
生活習慣による悪い姿勢も原因の一つです。猫背の人は特に背骨がゆがんでいき、結果として身長も縮みやすくなるので、正しい姿勢を維持する必要があります。O脚なども身長を低くする要因となります。
年を取って猫背になってしまった場合、まず歩行や日常生活に支障が出てしまいます。背中が丸まってしまうことで足がうまく上がらなかったり、イスの立ち上がりが困難になったりするのです。歩いたり立ち上がったりという何気ない動作が難しくなってしまいます。
人間の骨は生まれてからずっと同じ形をキープするわけではありません。例えば膝の手術をすると膝周辺の形が変わり、その影響で長い年月をかけて骨の形も変わってきます。
さらに、猫背は内臓が常に圧迫された状態となるので、便秘や食欲低下、常に背中が伸びづらい状態なので呼吸機能の低下を招くケースもあります。加えて、頭部や首の関節にもストレスがかかりやすく、肩凝りや腰痛を招くこともあります。
なお、身長の縮みを予防するには、よい姿勢を保つことが重要です。特に次のような運動を意識的に行うと効率的です。
バスタオルを細長く丸めたものを肩甲骨の下あたり平行に置き、その上にあおむけに寝転がって、両手をバンザイするように頭の後ろにもっていくと猫背が矯正されます。
また、ズボンの後ろポケットに両手を入れて手のひらをお尻の位置で固定します。そのうえで両方の肘を寄せるように動かすと肩甲骨が動きます。この時に肩と手のひらは動かさず、腰が反らないように注意してください。1日に1回20秒×5セットほど繰り返すと姿勢もよくなっていきます。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。