テリー 昔は収録時に何か失敗があったら、どうしていたんですか。
小林 全部撮り直しだね。今みたいにデータを切ったり貼ったりできないから、手回しでフィルムをカラカラカラって頭まで戻して、また最初から演じる。例えば、こんな有名な話があってね。
テリー え、何ですか。
小林 とある作品のラストで、墜落した飛行機の搭乗者たちが丘の上で救援を待っているわけです。岩肌に夕陽が差した、実にきれいな場面にヘリコプターが飛んでくる。そこに「あ、ヘリコプターだ!」というセリフが入って、物語は大団円を迎えるわけですよ。ところが、そのセリフの担当が若いヤツで、ラストを自分が締めるということで、すっかり緊張しちゃっているわけだ。
テリー でしょうね。最後をトチったら最初からやり直しだから。
小林 もう「ラストなんて来ないでくれ!」みたいな顔して待っているわけよ。それで、いよいよ向こうからヘリコプターがバタバタバタって飛んできた。そしたら、そいつ「あ、ヘコヘコ、ヘコヘコ!」って。
テリー アハハハ! ヘリコプターが言えてない!
小林 「バカモン! 頭からやり直しだ!」って怒られて、また40分くらい同じ演技をするというね。またよくある話なんだけど、一度そういう状況に陥ると、また「ヘコヘコ」ってやっちゃいがちなんだよな。
テリー 一度失敗しちゃうと、次はもっと緊張しますからね。
小林 地獄、地獄。若くなくたって、最後のセリフを言うヤツはみんな心臓バクバクですよ。
テリー しかし、さっきも言いましたけど、今や声優は若者の憧れの職業になっていますよね。
小林 うん。昔は食えないから、しかたなくやっていたんだけど、それが今はあちこちの専門学校に声優学科があって、うちの事務所にも声優の養成所があるから。
テリー 小林さんの立場から見て、今の若い声優さんたちはどんな印象がありますか。
小林 みんなテクニックもあるし、よくやっているんじゃないですかね。ただ昔と違って、一度聞いて「この声を演じているのは○○だな」っていう、目立つ個性があまり感じられないような気はする。俺、仕事はしているんだけど、昔からアニメはほとんど見ないから、実際のところはわからないけどね。
テリー 若い声優さんは、やっぱりアニメがやりたくて入ってくるんですか。
小林 そうみたいだよ。映画よりも、むしろアニメの吹替がやりたいのかな?
テリー それって、なんだか寂しいなァ。小林さんといえば、僕らの世代にはジェームズ・コバーンの声のイメージが強いんです。もう亡くなっちゃいましたけれど、本当に大好きな俳優でした。
小林 うれしいね。俺もあの人を演じているのが、とても楽しかった。
テリー 顔もちょっと、小林さんに似ている気がしますけど。
小林 うん、昔は顔や唇の形が似ている役者を吹替に配役していたんだ。長年演じた役者だし、もう他人に思えないんだよ。あと先日亡くなったモンキー・パンチさんによると、「荒野の七人」の彼は次元大介のモデルらしいからね。
テリー へぇ! じゃあジェームズ・コバーンがいなければ次元が生まれなかったし、小林さんが演じることもなかった。
小林 そういうことになるのかもね。だからコバーンは、俺にとって特別な俳優なんだ。