吉田の奔走ぶりを冷ややかな目で見ていたのは、08年の北京五輪を最後に競技として除外され、2020年大会で復帰を目指す「野球」だった。
五輪競技は男女双方によるものが望ましい、というIOCの考えのもと、国際野球連盟は今年、国際ソフトボール連盟と統合し、世界野球ソフトボール連盟を設立。1競技2種目の「野球・ソフトボール」として一致団結し、レスリングなどと1枠を争うことになった。日本代表の活動を推進する全日本野球会議も公式サイトで、五輪競技復活をスローガンに掲げている。
レスリングと野球──この両者の間で期せずして、招致そっちのけの「大乱闘」が勃発した。
「東京はオールジャパンの態勢で評価委員を迎え入れた、などというのはウソ。強力なライバルとなった両者、すなわちレスリング協会関係者および招致委員会内のレスリングシンパと、同じく野球シンパ軍団が蹴落とし合戦を展開したのです。IOC委員に言いたい放題、お互いに悪口を吹き込む始末で‥‥」
先の招致委スタッフの耳にまず入ってきたのは、野球サイドの弁。それは次のようだったという。
「もはやレスリングなんて伝統に甘えているだけの古臭い競技。競技人口からして五輪には不適切だ。野球のほうが人気はあるし、収益面でも上。チケットがさばけるよ」
そもそも競技人口の例を出すならば、レスリングの約100万人に対し、継続して競技が決定している近代五種は3万人足らず。言いがかりに近い気もする。
当然ながら、レスリングサイドも激しく応酬した。いわく、
「アマチュアの祭典である五輪に商業主義の野球は向いてない。WBCでさえ盛り上がらないのに五輪でやる意味なんてない。そもそも野球をやっている国なんて、レスリングに比べたらはるかに少ない。マイナースポーツですよ。五輪の伝統的にも、レスリングは1896年の第1回アテネ大会から実施されているわけだし。野球なんて(五輪では)つい最近始まったばかりでしょう」
前出・招致委スタッフはアキレ返る。
「子供のケンカ以下ですよ。こんな低レベルな蹴落とし合戦をしているようでは、東京五輪招致なんて夢のまた夢。くだらない内輪モメが招致活動のマイナス要素とならないことを祈ります」
両者の勝ち目はというと、
「IOC内部からの情報を総合すると、現時点では圧倒的にレスリングがリードしているようです。野球はほとんど復活の目がないと言っていい状態ですね」
レスリングにケンカを売っているヒマがあれば、せっせとロビー活動でもしたほうがよかった‥‥。