局入りした殿がエレベーターへ向かうあいだ、付き人は車のトランクから必要なものを素早く取り出し、急いで殿を追っかけます。
そして、エレベーターの中で、殿の様子をチラリとうかがい、本日の殿のご機嫌などを推測するのです。
この日の殿は〈いたって機嫌よし!〉とわたくしは判断いたしました。
エレベーターを楽屋のフロアで降り、楽屋へと向かうと、楽屋前には、プロデューサー、ディレクター、ADさんなどなど、かなりの数のスタッフさんが、殿を出迎えます。
殿はせっかちな性格ゆえ、楽屋に入るとすぐにヒゲを剃り、台本などをチェックし、着替えも済ませ、本番への準備を万端にいたします。
で、この日の収録は生放送であり、その前に生放送中で使う1分程のVTR撮りがあるため、殿は素早く“誰が見てもおかしな格好”に着替えられると、ご自身が喋る原稿をチェックし、すぐにカメラの前に立ったのでした。この間、楽屋に入られてからわずか5分。殿はいついかなる時でも、芸人のスイッチをオンにできる方なのです。
1分程度のVTR収録が終わり、殿はもう一度、私服に着替えられると本日の生放送の打ち合わせを済ませます。
この打ち合わせが20分程度。それが終わると、本番までの1時間半を楽屋にてリラックスして待ちます。
その間に必ず殿が発するのは、「最近なんか変わったことねーか?」といった質問であり、わたくし、こういった時、常に1つぐらいは何かしら殿が食いつきそうな話題を一応は用意しておきます。
で、この日も案の定、
「最近なんか変わったことねーか?」
と殿が聞いてこられたため、まずは、
「殿、お気づきだとは思いますが、アサヒ芸能の企画で使う写真を先ほどから何点か撮らせていただいてます。すいませんが、まだ何枚かお撮りしますのでよろしくお願いします」
といった、〈今、言うの?事前にちゃんと殿に伝えとけよ!〉といったツッコミが方々から聞こえてきそうな“場当たり的企画”の内容を打ち明けると、
「アサ芸の連載は好評か?」
「はい、おかげさまで」
「じゃー、サービスしてやるか」
といった会話に発展し、殿はおどけたポーズをとり、わたくしにシャッターを押すよう促してきたのです。そして、
「おい、アサ芸に言っとけよ。サービスしたんだからよ、今後、俺のゴシップは載せないようにって」
と、例によって愛嬌たっぷりにおっしゃられたのでした。