ここに登場するエピソードの多くは、以前、わたくしが殿の付き人を務めていた7年の間に培ったものです。ぼちぼち“ネタ枯れ”がささやかれている昨今、さらなるネタ補充の目的と初心に帰る意味で今回、わたくし、アル北郷41歳、約9年ぶりに殿の付き人を務めて参りました。今回はページ拡大版にてお読みください。では。
楽屋にて殿を待つこと1時間、殿の運転手よりマネジャーに「そろそろ到着します」といったメールが入り、そのメールを合図に、わたくしたちはテレビ局の地下駐車場へと降り、殿の車を待ちます。
20時過ぎ、予定どおりに殿を乗せた白くどでかいイギリス産の高級車が駐車場に到着し、すばやく後部座席のドアを開けたわたくしは、「おつかれさまです」とご挨拶。殿は、
「おう」
と小さく声を漏らすと、やや猫背ぎみに歩き、エレベーターへと向かいます。
この日の殿は、黒いカシミアのセーターに色の濃いインディゴブルーのデニムパンツ。そして、実に品のよい白いスプリングコートを羽織り、さらには最近お気に入りのボルサリーノの帽子とサングラスを着用してのスタジオ入りです。
この殿のお姿を見た暁には誰もが、「ちょっとおしゃれなアウトレイジ」とツッコんだことでしょう──。
花見シーズンも一段落した、とある強風吹き荒れる夕方、わたくしは9年ぶりに殿の付き人を務めるべく、「ニュースキャスター」を放送するTBSのある赤坂へと先乗りして、到着をお待ちしておりました(移動は運転手の仕事)。
ちなみに、殿はこの日、すでに昼から4時間にわたるテレビ番組の収録を1本済ませており、TBSは本日2本目のお仕事。付き人のわたくしが体たらくにも1本目のお務めだというのに、本当によく働く66歳です。
思えばわたくし、9年前まで、殿の付き人を務めておりました。その期間は26歳から32歳までの7年間であり、あの頃は来る日も来る日もテレビ局で、または映画の撮影現場にて、殿の回りをウロチョロとしながら「おい、タオル」「おい、お茶」「おい、タバコ(当時殿は日に2箱はお吸いになっていて、6年程前にピシャリとおやめになったのです)」といった殿の要求に一喜一憂し、“しっくはっく”しながら、なんとかクビにならない程度のミスを繰り返し、付き人稼業を務めあげていたのでした。
本日は久々の任務。ミスなく付き人を終えることができるだろうか‥‥。
そんな一抹の不安を覚えながら、TBSの楽屋へと入りました。
楽屋に入ってまずしたのは、屈辱的にも現ビートたけしの付き人で、15歳も年下の“シェパード太郎さん”に頭を下げ、最近の付き人のやり方についてレクチャーを受けたことです。
彼、この時、わたくしが下手に出たのをいいことに、あきらかにいつもとは違うやや横柄な口調と声のトーンで、ここぞとばかりに、
「北郷さん、9年前にやっていた付き人をいきなり今日来てできるんですか? そんな甘いもんじゃないと僕は思いますよ。昔と今じゃ、付き人のやり方だって違うんですから」
と、思いっきり苦言を呈されたのでした。
人間、立場が変われば、口調も態度も変わるもの。きっとこういったタイプが、戦争などが起きた時に、一番悪いことをする人間なのでしょう。
さて、そんなこんなで、殿を待っていたのです。