横田めぐみさんといえば、小泉訪朝時に北朝鮮が「死亡した」と発表した8人の拉致被害者のうちの一人。だがその後、死亡年月に関する北朝鮮の説明が変遷したり、目撃証言などが相次ぐ。トドメは北朝鮮が提出してきた「めぐみさんの遺骨」をDNA鑑定した結果、別人のDNAが発見されたこと。死亡説は急速に信憑性を失っていった。前出・外務省関係者が言う。
「ニセ遺骨事件以降、北朝鮮側は、実は『横田めぐみ』という名前を一度も口にしていない。今回も、誰が聞いてもめぐみさんだと思える言い回しを使っているだけです。これまでも絶えず『めぐみさん』を思わせる話が浮上して、北朝鮮と接触した国会議員が翻弄されてきましたが‥‥」
めぐみさんの帰国──。実は日本政府は彼女の生存を前提に、これまでさまざまな裏工作を行ってきた。
まず、野田政権下の昨年10月、野田総理(当時)の命を受けた有田芳生参院議員(61)が、日本人の遺骨埋葬地を訪問する「一般墓参団の一員」として平壌入りし、北朝鮮政府高官とひそかに接触したという。ここで登場する重要なキーワードが「ウランバートル」。北朝鮮と関係の深いモンゴルの首都である。北朝鮮中枢にパイプを持つ作家の北一策氏が明かす。
「ウランバートルは日本と北朝鮮が密談をする時の重要な場所。有田氏はウランバートルでめぐみさんの両親である横田滋さんと早紀江さん夫妻、そしてめぐみさんの娘とされるキム・ヘギョンさんを面会させるようセッティングした。ところが帰国後、有田氏がこの件を一部関係者に漏らしたことで頓挫したようです。ウランバートルでは、めぐみさんはやはり死亡していたということで、横田さん夫妻を納得させる、との計画でした」
めぐみさん死亡説は北朝鮮のいいかげんな言い分によるものだったはず。これはどういうことか。北氏が裏事情を説明する。
「小泉訪朝で金正日総書記は拉致を認めて謝罪し、しかしめぐみさんら8人を死亡と報告。北朝鮮にとって拉致問題は解決済みとなり、次の展開、すなわち植民地支配の清算と日朝国交正常化交渉が残されたことになりました。金総書記はこの“事実”を残したまま死んでしまった。北朝鮮国民にとって神に等しい指導者の言葉を覆すことにはかなりの困難を伴うのです」
政治部デスクは言う。
「事実、拉致問題に深く関わったことのある複数の大物国会議員は一様に『めぐみさんは亡くなっている。いや、そういうことになっている。とても公言はできないのだが‥‥』と言う。死亡したとは本気で思っていないわけです」
北朝鮮の「メンツ」を立てつつ、横田さん夫妻も納得させる。安倍政権に代わった日本は「次の交渉」に乗り出した。