胃ガンの原因が「塩分の摂りすぎや、魚や肉の焦げを食べること」と言われていたのは昔の話。実は「感染症」であることをご存じか。
肝臓ガンの多くがB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)が原因であるように、胃ガンの99%は「ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)」による感染症であるということがわかっている(一般社団法人予防医療普及協会統計データより)。つまり、ピロリ菌の感染以外による胃ガンはほぼ発生しないと考えられているのだ。
胃の中に住んでいるピロリ菌は、免疫が不十分な5歳くらいまでに感染すると言われている。感染経路はまだ明らかになっていないが、日本のように公衆衛生が整備された国では、親子の口移しなどが主な原因と考えられている。「大人同士のキスでうつる」と思う人もいるかもしれないが、大人は胃酸が多く、免疫状態がしっかりしているため、まず感染しない。
近年では、公衆衛生の向上によりピロリ菌感染者数は減少していて、50代以上は40%、40代は20%、10代は5~10%程度と考えられている。
ただし、ピロリ菌に感染していても、必ずしも胃ガンになるわけではない。ピロリ菌が胃の粘膜に住みつき、炎症を起こし、萎縮性胃炎となって、さらにそれが進行した場合にのみガンを発症するのだ。
ピロリ菌感染者で1年間に胃ガンが発生する率は平均0.5%とも言われている。もちろん軽視できない数字だが、ピロリ菌を除菌することで胃の炎症を軽減し、萎縮性胃炎が改善すれば、胃ガン発症の抑制につながる。
特に2013年からは内視鏡検査で「ピロリ感染胃炎」と診断された場合、保険診療で除菌できるようになった。健診でピロリ菌が見つかったら、除菌すること。さらに除菌したあとも、定期的な胃ガン検診を受けることが重要なのだ。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。