〈ばいばい〉
それが最後に残した言葉だった。5月23日午前4時。女子プロレス団体「スターダム」に所属する美女レスラー・木村花さんは、その日のうちに帰らぬ人となった。団体によれば死因は不明とのことだが、実は明らかにみずから命を絶ったであろう“実況中継”がなされていたのだ。語るのは取材を通じて木村さんと知り合った格闘技ライター・A氏である。
「23日の明け方、何気なくツイッターの画面を見ていたら、相互フォローしている木村さんのツイートが、ただ事でないことに気がつきました」
そこには、まるで「遺書」とも取れるような言葉が並んでいた。
〈毎日100件近く率直な意見。傷ついたのは否定できなかったから。お母さん産んでくれてありがとう。愛されたかった人生でした。弱い私でごめんなさい〉
木村さんの母・響子さんも元プロレスラーであり、父親はインドネシア人(現在は離婚)で「レスラー二世にしてハーフ」という珍しい存在だった。写真集も発売するほどの美貌に加え、164センチのダイナミックな体格から、女子プロレスの未来を担う逸材と期待されていたのだ。
だが、さらにその後、異様な画像の数々がツイートされたとA氏は続ける。
「血まみれのシーツに、何十カ所も刺し傷の入った両腕の画像です。もしかしたら両脚も傷つけていたかもしれない。文面から合わせると、明らかに自身で命を絶つような内容。返信の欄には日本だけでなく、海外からも多くのファンが『花ちゃん、どうした!』『大丈夫だから』と励ます声が100件以上も並びました」
A氏も同じように「生きてほしい」というエールを送ろうとした。だが、自傷行為の最後の〈ばいばい〉までいくつかのツイートは削除され、返信はできなかった。
「とはいえ、何とか、相互フォローでしたのでDMにて同じ内容を送ることはできました。ただ、情勢はかなり厳しいと覚悟しました」
そしてA氏は同日午後、団体の正式発表から訃報を知る。直接の原因とされたのは、すでに報道されたようにSNS上での執拗な誹謗中傷であるようだ。木村さんは昨年9月から「テラスハウス」(フジテレビ系)のメンバーとなったが、3月にオンエアされた回で感情を荒げるシーンが「番組を降りてほしい」などの不当なバッシングにつながったという。その矛先は木村さんだけでなく、母親のSNSにも飛び火したため、繊細な木村さんは追い詰められてしまった…。
現在、プロレス界も他のスポーツと同様、長らく開催を自粛している。あるいは、試合が通常通り行われていたなら雑音もシャットアウトできたかもしれないと思うと、これも「コロナ禍」の悲劇と呼べそうだ。