テリー 山田洋次監督との最初の出会いって、覚えていらっしゃいますか。
佐藤 もちろん。山田監督がなべおさみさん主演の映画「吹けば飛ぶよな男だが」68年)っていう映画を撮る時に、俺に会いに大阪の劇団事務所まで来てくれたんですよ。
テリー えーっ、山田監督みずからが?
佐藤 どこかの監督かプロデューサーから「大阪にちょっと変わった男がいて、おもしろいですよ」と言われて、気になったみたい。でも、こっちはまるで知らないから「俺は会いたくねぇや」って偉そうにしちゃってね、遊びで1時間ぐらい遅れて面接に行って。
テリー ええっ、ダメじゃないですか。
佐藤 普通はね。でも、俺を紹介したその人は「あの野郎はふざけた男で、1時間ぐらい平気で遅れてきますよ」と言ってくれてたから怒られなかった(笑)。で、大阪のチンピラみたいな役で出ることになった。
テリー やっぱり蛾次郎さんに魅力があったんでしょう。現場に出てみて、どうでしたか。
佐藤 「すばらしい」のひと言ですよ。普通なら「よーい、スタート!」で、ちょいちょいと撮って終わるんだけど、「違う、そうじゃない」と粘るんですよ。
テリー なるほど、それは厳しい。
佐藤 でも「どこが違うのか」は絶対に言わない。偉そうに言っちゃいけないけれど「あ、この監督は違うな」と思って一生懸命やったから気に入ってもらえたのかな。そのあと、テレビで寅さんをやったんですよ。
テリー テレビドラマ版「男はつらいよ」ですね。
佐藤 あれも山田監督が脚本を書いてたの。山田監督に「佐藤くん、見たことある?」って聞かれたから「あれ、おもしろいね。俺、ずっと見てんだ」「出る?」「うん」みたいなやり取りをしたら、次の週からレギュラーになった。
テリー テレビでは寅さん、死んじゃうんですよね。
佐藤 そう。最終回にハブ捕まえて儲けようって俺と奄美大島に行って、逆にハブにかまれて死んじゃう。
テリー あのラスト、けっこうショッキングでしたよね。
佐藤 みんな、そう思ったんじゃないのかな。それで終わるはずだったのに、局には「なんで寅を殺した!」ってジャンジャン電話がかかってきたから、「じゃあ1本だけ」ということで映画を撮ったの。山田監督からしてみると、あまり出来がよくなかったらしいんだけど、まあ、劇場に客が来るわ来るわ!
テリー 当時大ヒットしましたからね。
佐藤 それで松竹も「じゃあもう1作」となったら、またヒットして。結局、毎年の盆・正月の映画として、ずっと続くことになった。
テリー 最終的には全50作。蛾次郎さんもそんな中でどんどん人気者になっていくわけでしょう。
佐藤 そうですね。シリーズが始まったばかりの頃、渥美清さん、山田監督と3人で上映している映画館に行ってみたんですよ。スクリーンに僕が映ると観客が「蛾次郎!」って拍手してくれたりしてね、あれはうれしかったなァ。そんな経験、今までなかったから。
テリー しかし、おもしろいですね。最初は会いたくないと思っていた監督との出会いが、結局、蛾次郎さんの運命を大きく変えてしまったわけだから。
佐藤 そうだね(苦笑)、すばらしい監督に出会えたことに感謝しています。