テリー これ、例えば奥さんはご覧になって何と言ってくれてるんですか。
角川 いや、それがね、まだ見てないんだよ。「劇場で見たい」って、試写会にも来ない。
テリー へぇ。やっぱり大きいスクリーンのほうがいいんですかね。
角川 それもあるし、もう1つは宣伝用につないだフィルムがあるでしょう。わずか3分なのに、それを見て、もう泣いてるんですよ。「おいおい、ここで泣いてたら、お前、劇場でどうするんだ」って。
テリー アハハ。でも、僕もちょっとわかるのは、この映画、ご家族の影響も大きかったんでしょうけど、角川さんの本質ですよね。
角川 あぁ、鋭い。俺もこれが本当の俺だと思うんだよ。今まで言わないできたけど、自分のいちばん根っこのところにある姿。
テリー そうですよね。急に出てきたわけでも何でもなくて。
角川 うん。それ、女房も気づいてるんですよ。今回、女房と子供を撮影現場に呼んで、見学させたんですね。そうすると本当に気楽に、リラックスして「よーい、スタート!」なんてやってるわけ。それを見て、女房が「本当にあなた変わったわね」と。
テリー それまでは絶対に外で見せなかった姿なんでしょうね。
角川 いや、さすがテリーさん、鋭いな。女房はともかく、それを第三者から指摘されると思わなかった。
テリー いやいや、だから角川さんね、ずっとこれが最後の作品だって言ってるでしょ。でも、僕はそんなことないと思うんですよ。
角川 あ、そう?
テリー だって「みをつくし料理帖」の原作小説はシリーズで、今回の映画で描いたのはほんの序盤じゃないですか。
角川 そうそう。料理人の澪が味覚を失ったりする話もある。今回のコロナじゃないけどね。
テリー でしょう。だから僕、これ「寅さん」に近いと思ったんですよ。登場人物たちと一緒に、見る側も年を取っていきたいんじゃないかって。
角川 あぁ、それはうれしいなぁ。確かに続編が見たいっていう声はものすごく多いね。
テリー いや、続編じゃなくて、僕は10本ぐらい作ったほうがいいと思います。そんなにバカみたいに予算かけなくていいですから。
角川 なるほどね。
テリー だから、もう最後って言うのやめてくださいよ。それでまた作ると「最後最後詐欺だ」って言われますよ(笑)。
角川 アハハ、そうだなぁ。
テリー 公開したら当然、角川さんもお忍びで見に行くんですよね。
角川 うん、行くよ。「大和(男たちの大和/YAMATO)」の時も3回以上行ったからね。
テリー 今、コロナで日本中が殺伐としてるじゃないですか。本当は誰もが被害者なのに、誰かを悪者にして責めたてる、異常な状況ですよ。僕、この映画を見て、本当に穏やかな気持ちになったんですね。だから、たくさんの人が見て、優しい気持ちになってもらえるといいなぁと思います。
角川 あぁ、ありがとう。本当にうれしいことを言ってくれるなぁ。それは僕が望んでいるところでもあるんですよ。ひとりでも多くの人がそういう気持ちになってくれたら本望です。
◆テリーからひと言
15年ぶりに「テリー伊藤対談」に出てくれたけど、変わらずお元気で、うれしかったな。映画も本当におもしろかったです。だから最後なんて言わず、これからも作り続けてくださいよ。