神宮の参拝時間は早朝から夕刻までだが、どうせ行くなら早朝だ。例えば、31日を除く毎月1の付く日(1日、11日、21日)に早朝参拝すると、思いがけず、皇室から奉納された神馬〈しんめ〉に出会えたりする。内宮・外宮にそれぞれ2頭ずついて、通常は御厩〈みうまや〉の中でおとなしくしているが、この日は朝8時頃、神前に見参するのが恒例。正殿の前に来るとおじぎをするように首を垂れる芸達者もいるとか。
さて、ガイドブックには必ずと言っていいほど「外宮からお参りするのが一般的です」と書かれている。神宮で祭祀を行う際、外宮から先に行うことを指す「外宮先祭」という言葉が根拠にあるらしい。だが井上氏によると、これも根拠のない流説。
「元神官の友人は『どちらから参ってもかまわない。便利なほうから行けばいい』と言う。市外から来る参拝者が圧倒的に多いため、必然的に(駅のある)北から南下するコースをたどることになり、結果的に北に近い外宮から参り、南へ下って内宮へ行く。動線の問題からそういう慣習が広まっただけでしょう」
伊勢市内の土産店の店主が、苦笑交じりにこんな話を聞かせてくれた。
「目の前の内宮へ行こうとする彼氏の腕を引いて『外宮から行かないと失礼よ』と今来た道を戻っていく女の人がいましたよ。わざわざ遠回りをしてご苦労なことだよねぇ」
神官も知らない「偽パワースポット」もある。スピリチュアル系の有名人がテレビや雑誌で「ここに神気を感じる」と言っては勝手に「パワースポット認定」しているらしいのだ。
有名なのは、外宮の正殿前にある「三ツ石」。注連縄〈しめなわ〉を張り巡らせ、1メートル四方のスペースに石が3つ並んでいる。ここに手をかざして「来た来た」「温かいものを感じる」と騒ぐ人々が増えているという。
「実際は、かつて神官たちが身を清めていた跡地にすぎず、神宮の関係者も戸惑っています」(地元関係者)
三ツ石に「パワーを感じる」と大々的に宣伝したのは麻生太郎副総理。テレビカメラの前で注連縄越しに手を伸ばし、「感じるね」とご満悦だったという。神社の境内にある注連縄は、基本的に「ここから先は立ち入り禁止」のサイン。とんでもない不敬行為になる。
内宮の参道にある大杉も「被害」を被った。ビートたけしがここを通り、「この杉はすごいな。パワーを感じるね」というコメントを残したことで、一気にパワースポットと化してしまったのだ。あまりに大勢になでられて皮がボロボロになり、神社の関係者も迷惑しているんだとか。