無名時代のタモリを故・赤塚不二夫氏らとともに「発掘」したメンバーの一人であるジャズピアニストの山下洋輔氏(71)。今でも交流を続け心を開き合っている、いわば長年の盟友だ。山下氏が語る「生身のタモリ」の“苦悩”とは──。
まずは、32年という長寿番組で、ギネスブックにも認定された番組なんだから、続けてもやめてもいいんだろうけど、いずれにしてももう十分でしょうね。友人としては当然、「よくやった」という思いです。
「いいとも!」を始める前のタモリは、「今夜は最高!」(日本テレビ系)で有名でしたが、ポマードべったりの真ん中分けのオールバックでサングラスといういでたちで、芸風もマニアックだったから、まさに「夜の顔」。
素人のものまね番組のオーディションに付いていったことがあるんですが、ディレクターは大笑いするものの、芸に毒があるから「テレビでは絶対ダメ」という声もあった。ところが、たまたま番組が始まった当初のテレフォンショッキングに研ナオコさんが出ていた回を見たんだけど、「あのタモリがお昼の番組に!」ってビックリしましたね。
テレビで見せるとおり、ひょうひょうとした人間で、我々友人と会っている時も、バカ話ばかりしてて仕事の話なんて一切しない人間だから、それはもうビックリでしたよ。
もともと福岡の素人でしかなかったタモリは、「福岡にとんでもなくおもしろい男がいる」ということで、私やジャズ仲間の坂田明、フォークシンガーの三上寛、イラストレーターの南伸坊、漫画家の赤塚不二夫さんなんかが、やっとの思いで行方を探し出して上京させたんだけど、そういった仲間と一緒にバーではさんざん笑わせてもらったよ。
その仲間の中に放送作家で劇作家の高平哲郎さんがいて、この高平さんはのちに「いいとも!」のスーパーバイザーになるわけなんだけれども、たぶん高平さんが「お昼の顔」としてのタモリをプロデュースしたんだろうな。新境地を切り開いてやってるな、という思いで見ていましたよ。
ただ、ギネスにも載るぐらいなだけにマンネリ化もするのはしかたがない。そういう批判もありましたがそのとおりだと思う。新しい発見がないと次には行けないわけで、番組の打ち切りは当然と言えば当然かもしれない。一方で、「いいとも!」をやりながらも「ブラタモリ」(NHK)みたいな、やはりひょうひょうとしたスタンスで新境地も開拓しているわけだから、「いいとも!」はやり尽くしたと言えるでしょう。
今では年に1、2回くらいかな、気になった映画や芝居を誘い合って会うくらいで、やっぱりそこでも彼は仕事の話なんてしないから、新しい番組を始めてもテレビを通じて「お、やってるな」くらいなもの。ですが、最近見せている「坂道研究家」という顔も、マニアックでありながら人を引かせてしまうわけではなく、本人自身がおもしろがっている様が見ているこちらも楽しいという、相変わらず彼独特の不思議な才能だなと思いますね。あれなんかは「いいとも!」があったから発揮できたものだと思う。
もともとはステージが得意な人だから、むしろこれからは逆に、時間やスケジュール的に挑戦できなかった映画や芝居で、また新たな才能を見せてくれる可能性もあるんじゃないかな。
「テレビ向きじゃない。しかもお昼の番組なんて」と言われつつも、受け身の芸というのかな、テレフォンショッキングで誰が来ても話を引き出す芸風を発明してきた彼だから、友人としても、これからどう変わっていこうと安心していられますよ。