「寄り合い所帯」と揶揄され、臨時国会中も大阪維新の会系と旧太陽の党系で足並みがそろわない日本維新の会。そんな状況をさらにこじれさせる大バトルが、あの「新人議員」と重鎮議員の間で勃発していた。
「怒るのにも値しない」
あきれた口調で語るのは、平沼赳夫代表代行(74)である。矛先を向けた相手は、同党から今年7月の参院選に出馬し、当選したアントニオ猪木氏(70)。両者の間に何が起きたのか。
「平沼氏は『拉致救出議員連盟』(拉致議連)の会長を務めていて、7月に当選した同党の新人議員に参加を呼びかけました。10月中旬になって猪木氏が『個人の立場で拉致問題に尽力したい』との理由で断ったのです」(政治部記者)
拉致議連は、北朝鮮に拉致された日本人を救出するため、超党派の議員で結成され、現在は286名が参加。入会は強制ではないが、新人議員が断ったことで党内は騒然となった。
「猪木さんの返答に、平沼氏は不満感をあらわにしていました。議員の間でも『平沼さんの顔を潰して何をしているんだ』との声が上がっています」(維新関係者)
そもそも猪木氏はこれまで、26回もの訪朝歴を持つ。7月の参院選当選直後にも電撃訪朝し、「拉致問題で話したいなら道筋を作れる」と橋渡し役を名乗り出た。だが、この単独行動に菅義偉官房長官(64)は、
「北朝鮮への渡航自粛を要請しているのが政府の立場。猪木氏にも自粛を求めた」
と不快感を示したものだった。平沼氏も憤る。
「7月の訪朝から帰国後、猪木氏に私の事務所に来ていただいた。訪朝の理由などを聞いたあと、拉致議連に誘ったのですが、明確な返事はなかった。私は当然入会して、人脈を生かして貢献してくれると思ったのですが、10月下旬に新聞記事で参加を断ることを知りました。普通であれば断るにしても挨拶に来るべき。恐らく北朝鮮側に『入るな』と言われたんでしょう」
議連入りを断ってまで「個人」で行動する理由は何なのか。前出・維新関係者は渋い顔でこう話す。
「猪木氏が話題になるのは訪朝関連だけです。自身の手腕で拉致問題が進展すれば再び脚光を浴びるだけに、最後の花を咲かせようとしているようです」
わが道を行く猪木氏に、維新の「闘魂」を注入できない理由もあると、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は説明する。
「参院選時、維新は橋下徹代表(44)の慰安婦問題で厳しい状況に置かれていました。目玉候補もいなかったため猪木氏を擁立し、期待どおり比例票を集めただけに、強く意見を言えないのです。拉致問題で政策が反対なのは選挙前からわかっていたこと。拉致議連が強硬姿勢を貫いているのに、猪木氏は対話での解決を求めていますから。同党の姿勢とも食い違うだけに、平沼氏は拉致議連の参加を『踏み絵』として、党の議員になった猪木氏の判断を見たかったのでしょう」
平沼氏に話を聞いたのは「猪木氏、11月上旬に訪朝計画」のニュースが流れた直後。またしても、である。
「国会議員には責務があり、国会中に議員が訪朝するのは非常に問題がある。猪木氏は『対話』で解決を求めているが、結局、北朝鮮は金を要求してくるだけです。拉致問題は安倍総理をはじめオールジャパン体制で取り組んでいるのに、個人で解決するのは難しい。単独行動で混乱が生じなければいいのですが」(平沼氏)
拉致問題以前にまず解決すべきは、国民そっちのけの内輪モメだ。