垣田氏は、飲食店や企業が「騙していいとも!」とばかりに、偽装に走る動機をこう解説する。
「食品偽装は儲かるので、この一件は阪急阪神ホテルズという企業独特の問題ではありません。小さなお店でも儲けたいですから、下地はあるのです」
偽装のうまみは10月23日に発表された、札幌市と東京都内の水産物販売業者による、中国産ウナギを国産ウナギと偽って転売していた一件でも明らかだ。日本語で「うなぎ蒲焼」などと印刷された段ボールを発注し「愛知県産」の印を押した悪質なケースだが、包装を加工するだけで約2倍の利益が出るというのだ。
発覚しにくく、簡単に儲かる──「食品表示・賞味期限のウラ側」(ぱる出版)の著者・岩館博人氏はどの飲食店にもある「米」を例に取ってこう解説をする。
「米の産地偽装は、問屋でもわかりません。例えば魚沼産コシヒカリは、実際の生産量より流通量のほうが多いと言われています。米の質のよしあしは見分けがついても、炊き方でも印象が変わるので、食べて品種を特定することは難しいのです。DNA鑑定でもしないかぎり、本物かどうかは明確にできません」
食通で知られる、ある企業の社長は、みずからの経験をこう語った。
「関西の有名一流ホテルで息子の結婚式を行うことになりました。下見を兼ねて食事をした際に、伊勢エビが出されたのです。メニューには『活け』と書かれていたのですが、どうもおかしい。食感がプリプリしすぎていたのです」
不審に思った社長が、店員を呼び出すと、彼は平身低頭でこう答えたという。
「仕入れが間に合わず冷凍を使用しました。結婚式にはきちんとしたものをお出ししますので、お許しください」
小薮氏はこう解説する。
「伊勢エビなどは、活けで入れると原価が高く、数も確保できません。そこで冷凍を使ったのでしょう。リン酸塩という保水剤につけて冷凍すると、食感が損なわれず活けの伊勢エビと違わないプルプルしたものができます。普通の人ではまずわからないものです」
「国産うなぎ」「魚沼産こしひかり」「活け伊勢海老」
──これらは“ブランド”である。実は食材のブランド化が、偽装を助長する結果になっていると、前出・岩館氏は解説する。
「消費者のブランド信仰の高まりと比例して偽装が起こるからです。『松阪牛は高いけど、うまい』となれば、消費者はそれを食べたいと思います。松阪牛に1万円払っても納得するかもしれませんが、アメリカ産牛肉が同じ値段なら高いと感じるでしょう。これはブランド信仰が値段を支えている一例です。それを偽装すれば簡単に儲かり、そこを支えているのは、皮肉にも消費者でもあるのです」
露呈しづらい偽装という手口によって、飲食関係の企業は、儲けと消費者のニーズの両方を簡単に満たすことができるのだ。