芸能

“日本のリバプール”博多スーパースター列伝<第2回>チューリップ(3)

20140116n

 再びチューリップのデビュー期に話を戻したい。業界中が絶賛したメジャーデビュー曲「魔法の黄色い靴」(72年6月)は、期待に反してさっぱり売れなかった。続く「一人の部屋」(72年9月)も同様で、前述のように草野社長から「ダメなら帰れ」の最後通告が出されたのである。

 博多のミュージックシーンにおいて財津は、誰よりも光り輝く存在であった。筆者はチューリップのライバルだった海援隊の武田鉄矢から、こんな言葉を聞いたことがある。

「吉田拓郎が『結婚しようよ』で大ブームになった時、博多でただひとり『大したコードじゃないよ』と言ったのが財津和夫。それはもう揺るぎなかった」

 その海援隊のドラムだった上田雅利を引き抜くなど、財津は一部で「バンド潰し屋」という呼ばれ方もした。ただ、西田四郎によれば、それだけではなかったと擁護する。

「引き抜くというより、博多中のミュージシャンが財津に相談に行くんだから。もちろん、一緒にやりたいという連中も多かった」

 西田はある日、財津から1本のカセットテープを渡された。それはアマチュア時代の甲斐よしひろの歌声である。

 後日、財津に感想を求められた西田は、素直に「いい声だ」と答える。

「よし、俺のマネジャー合格! すぐに九州に飛んで契約したほうがいいよ」

 後に甲斐が石橋凌(ARB)のテープを西田に聴かせ、同じように「久留米に行ったほうがいい」と伝えたのは、福岡の音楽史を語る上で見逃せないシーンである。

 さてデビューからの2作が売れなかった財津が背水の陣で書いたのは、博多から上京した頃をモチーフにした「心の旅」(73年4月)である。もはや説明不要な大ヒット曲であり、みごとにメジャーの切符を手に入れる。ただし──、

「草野社長の鶴の一声だったね。レコーディング直前に、姫野達也をボーカルにしようと言い出したのは」

 西田によれば、ディレクターの新田和長は最後まで財津のボーカルにこだわった。ただ、GS全盛期を知る草野の戦略は、メンバー最年少で、ルックスにも声にも甘さを残す姫野を先に売り出そうというものだった。

 財津は勝負曲でありながらボーカルを外されたことに屈辱を感じた。それでも、振り返れば「あれで良かったんだ」と思え、スタッフの“ヒットを見抜く目”に改めて感服した。

 ただし、チューリップは黄色い歓声を浴びるアイドルバンドとなった。姫野の甘酸っぱいリードボーカルは続いたが、あえて財津は、スタッフの反対を押し切って壮大なバラード曲をシングルにする。

 自身がボーカルを取り戻した「青春の影」(74年6月)は、以来、多くのミュージシャンにリスペクトされる珠玉の1曲となった──。

カテゴリー: 芸能   タグ: , , , , , , , , , , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    なぜここまで差がついた!? V6・井ノ原快彦がTOKIO・国分太一に下剋上!

    33788

    昨年末のスポーツニュース番組「すぽると!」(フジテレビ系)降板に続いて、朝の情報番組「いっぷく!」(TBS系)も打ち切り決定となったTOKIOの国分太一。今月30日からは同枠で「白熱ライブ ビビット」の総合司会を務めることになり、心機一転再…

    カテゴリー: 芸能|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<寒暖差アレルギー>花粉症との違いは?自律神経の乱れが原因

    332686

    風邪でもないのに、くしゃみ、鼻水が出る‥‥それは花粉症ではなく「寒暖差アレルギー」かもしれない。これは約7度以上の気温差が刺激となって引き起こされるアレルギー症状。「アレルギー」の名は付くが、花粉やハウスダスト、食品など特定のアレルゲンが引…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<花粉症>効果が出るのは1~2週間後 早めにステロイド点鼻薬を!

    332096

    花粉の季節が近づいてきた。今年のスギ・ヒノキ花粉の飛散量は全国的に要注意レベルとなることが予測されている。「花粉症」は、花粉の飛散が本格的に始まる前に対策を打ち、症状の緩和に努めることがポイントだ。というのも、薬の効果が出始めるまでには一定…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
上原浩治の言う通りだった!「佐々木朗希メジャーではダメ」な大荒れ投球と降板後の態度
2
フジテレビ第三者委員会の「ヒアリングを拒否」した「中居正広と懇意のタレントU氏」の素性
3
3連覇どころかまさかのJ2転落が!ヴィッセル神戸の「目玉補強失敗」悲しい舞台裏
4
巨人「甲斐拓也にあって大城卓三にないもの」高木豊がズバリ指摘した「投手へのリアクション」
5
ミャンマー震源から1000キロのバンコクで「高層ビル倒壊」どのタワマンが崩れるかは運次第という「長周期地震動」