栗東トレセン関係者は騎手の経験の豊富さを“うまい”騎手の条件にあげる。
「大惨敗のあと迎えた有馬記念のゴールドシップは3着に突っ込んできた。初ブリンカーが奏功したようだが、テン乗りのムーアの進言で、ブリンカーの一部に小さな穴をあけていたそうです。その気遣いが一流の証しでしょう。競馬もFIと一緒で、ドライバー(騎手)とメカニック(調教師&担当助手)との情報交換が、もっとあっていいのではないかと思いますね」
外国人ジョッキーの魅力は、積極的なレースぶりにも表れる。
「よく厩舎サイドから『1頭になると、ソラを使うから追い出しを我慢させてくれ』というコメントを聞きますが、どうも外国人騎手はそういう意識を持たないというか、積極的に早めに抜け出し、ゴールまでしっかりともたせているように映るんですよね」(鈴木由希子氏)
昨年のレースで言えば、W・ビュイック(25)がウキヨノカゼで勝利したクイーンCだ。道中4番手の追走から直線で早めに先頭に立ち、東京競馬場の長い直線を堂々と押し切った。馬をもたせるには何も腕力だけではないという。「腕っぷしが強くて追える」なんてホメ言葉を聞くが、実は大したポイントではない。個人馬主が話す。
「騎乗フォームを固め、フィジカルを鍛えればできることですから。力で抑え込むのではなく、馬とのコンタクトで能力を発揮させてくれる騎手こそ超一流。好スタートを切り、妥協のないポジション取りから決してブレーキをかけない道中のコントロール。最終コーナーでは瞬時に判断して突っ込み、ゴールまで馬に気を抜かせない技術。そこが一流と二流の分かれ目です」
昨年のアルゼンチン共和国杯が、まさに典型的なレースだ。アスカクリチャンを勝利に導いた戸崎圭太(33)の完璧な騎乗ぶりは、負けず嫌いで知られる東の御大・藤沢和雄調教師をもうならせた。日刊スポーツの鈴木良一記者が話す。
「藤沢先生がレース後『うちの馬(ルルーシュ・3着)に道を作らせて、きっちり差し切った。あれをやられちゃ、つらい』と、戸崎騎手を絶賛していました。6枠12番の発走だったのに、気がついた時には馬群の最内にいて、直線で前が詰まりそうになりながらも、巧みな進路判断できっちり馬群をさばいてきた。さすがのひと言。一般に小回りの競馬場でもまれてきた地方騎手は、瞬時の判断に優れていると言われるが、まさにそんな印象でした」
昨年3月2日の中央デビューにもかかわらず、東のリーディング1位・内田博幸(43)の114勝にわずか1勝差にまで詰め寄った。スポーツ紙記者が話す。
「寡黙なタイプの内田に比べて、戸崎は厩舎スタッフとうまく溶け込んでいる。12月22日の4R新馬戦は戸崎の進言が勝因。勝ったアデイインザライフの母父は、短距離路線で活躍したサクラバクシンオーでしたが、追い切りに乗った感触から『ゆったりと、飛びの大きな走りをするので、長めの距離でも大丈夫でしょう』と、戸崎は判断。その結果、陣営も芝2000メートル戦を選び、快勝でした」
「今年は戸崎が福永の牙城を崩す最右翼」との声も多く聞かれた。