「ものが見えづらくなった」「階段の段差でつまずきやすくなった」といった症状は中高年によくみられるだろう。実は、視力低下や老眼が原因ではなく、加齢による「色覚異常」が原因の場合もあるのだ。
「色覚」とは、色を正確に判断する感覚のこと。「色覚異常」は「先天色覚異常」と「後天色覚異常」に分類されるが、前者は遺伝などが原因で、後者は目の視神経や脳などの病気、怪我、加齢などによって発症する。
80歳までには全ての人が加齢による「色覚異常」をきたすと言われている。
加齢による「色覚異常」は、20代後半から少しずつ進行している。水晶体(目のレンズ)は生まれた時は無色透明だが、有害光線から目を守るために、加齢とともに黄色に変化していく。80代になると水晶体は濃い茶色になる。セピア色の写真を見る、あるいは、ビール瓶越しに景色を見るような見え方になるという。
自覚症状があまりないため、放置されていることが多いが、思わぬ事故の原因につながる危険もある。
例えば、高齢者の「着衣着火」の火災事故。ガスコンロの炎の大きさは、年代によって見え方が違っている。最も高温である青色の炎の先端は高齢者には判別しづらい。そのため、炎から距離をとっているつもりでも、青色炎の先端部分は見えていないため、ガスコンロの火が衣服に燃え移ってしまうのだ。
高齢者の転倒事故も、色覚異常が関係している可能性がある。特に暗い場所では、階段のいちばん下の段が影のように見えてしまい、段差の境目がわからないことが多い。そのため踏み外して、転倒事故につながるのだ。
加齢による「色覚異常」は、ほとんどの人が無自覚なので、自身の色覚異常の進行具合を知るためにも一度、眼科医で色覚検査を受けてみるのもいいだろう。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。