現在、選手たちはオフシーズンの真っただ中。阪神の選手たちもベテラン、若手を問わず自主トレに励む毎日を送っています。
ただ、オフシーズンはチームと選手間の契約期間外の時期に当たり、監督はもちろん、私のような教える立場の者でも指導ができません。私たちが選手に教えられるのは、春季キャンプからになります。
我が阪神は例年どおり、沖縄の宜野座、高知の安芸に分かれてのキャンプとなります。春季キャンプでは以前書いたとおり、ゴムチューブを使った練習を取り入れようと検討しています。
ただ、今回その導入にあたって、選手たちが抱える大きな問題が見え隠れしています。それは、選手たちが与えられてばかりいる環境下にあるという点です。
独自の練習法は本来、自分のことをいちばんよく知っているはずの選手自身が考え、監督やコーチ陣に相談して取り入れるべきものなのです。
それは平田勝男二軍監督も同じ意見。ゴムチューブをどのように練習に組み込んでいくかという相談の中でも「本当は選手が考えなくてはいけないし、チームではなく、個人で購入しなくてはいけない」と少し残念がっているようでした。
当然ながら、選手は個々によって体格や持ち味、さらに細かく言えば、グリップを握る位置やスタンスの広さ、テイクバックの幅などが違います。キャンプでの練習メニューは基礎体力を身につけるうえでは必要な内容ではありますが、個人の長所を伸ばすという面では限界があるのです。
理想は、キャンプの練習のプラスアルファとして、自分自身が最も効果的だと思う練習を1人で行うことです。
私も、現役時代はキャンプでの合同練習後にコーチをつけずに1人で夜遅くまで素振りを行っていましたし、キャンプでの練習後もボールの感覚を養うためにホテルの部屋に戻っても一日中グローブをつけ、ボールを握っていたこともあります。ホテルの中では他にもバットを振り抜く力を習得する意味で砂を入れたビール瓶を持ち、手首を回す練習もしていました。
このような1人で行う練習の利点は何かというと、一つには先ほどあげたとおり、個々の選手に合わせた効果を得るためです。
そしてもう一つは、1人の時間を作り、じっくりと考えながら練習を行えるというメリットがあります。
キャンプの練習では周囲の選手や監督、コーチなどの存在があり、練習に打ち込もうとしても、どうしても集中力が切れてしまう場面があります。
それに比べて、1人での練習には周りの声がない。黙々と自分に必要なことだけを行えます。自分自身が選んだ練習だけに、集中力もキャンプメニューより格段に上がるのです。やらされる練習とみずから積極的にやる練習では、集中力も身につけるスピードも段違い。選んで行うという意識作りも、1人での練習では大事な要素なのです。
けれど、今の選手はこの自分自身で考えて練習を行う機会が非常に少なくなってきている。これには環境のよさが影響していると思います。