阪神DCとして2年目の春季キャンプが始まりました。私が橋渡し役となって江夏さんに臨時コーチをお願いしたこともあって、第2クールの途中まで一軍の沖縄・宜野座に帯同することになったのです。
今年の阪神は大物の新加入選手がいないため、報道陣の話題も江夏臨時コーチに集まっています。ただ、球団の狙いはもちろん話題作りではありません。飛び抜けた実績を誇る江夏さんの投球理論を選手たちが少しでも吸収して、能力を高めてほしいからです。まだキャンプは始まったばかりですが、様子をうかがっていると、間違いなくプラスになると断言できます。
江夏さんの指導法はシンプルで明快です。「キャッチボールの延長がブルペンで、ブルペンの延長が試合」という考え方で、「質の高いストレートを投げること」をテーマに掲げています。正しいキャッチボールは野球の基本で、選手たちは少年野球の頃から繰り返し教わってきたはず。でもプロ野球というカテゴリーのトップでプレーするまでになると、その基本が知らず知らずのうちにおろそかになっていることがあります。
また、今はツーシームなどムービングファストボールと呼ばれる打者の手元で動かすストレートがもてはやされる時代ですが、それもきれいな回転のストレートを投げられてこそ、初めて身につく技術。江夏さんが言うからこそ、重みがあり、忘れていた大事なものを思い出した選手も多いのではないでしょうか。
昨秋のキャンプで臨時コーチを務めた元広島の大野も、弟分と言える存在でした。指導の根幹は同じで、選手にとっては江夏さんのアドバイスをスムーズに受け入れられたのではないでしょうか。選手だけでなく、中西投手コーチらも学ぶことはたくさんあるはずです。ぜひ今後の指導の財産としてほしいものです。
チーム宿舎に帰ったあとの江夏さんとの夕食時も、私との話題はチームのことばかりです。うれしいことに、素質のある若い投手が多いと言ってくれています。何しろ、今回の一軍キャンプに参加している投手18人で、サウスポーが7人もいるのです。球史に残る左腕の指導のもとで個々がレベルアップを果たせば、補強戦線で誤算続きだった今オフの「最高の補強」となるはずです。
チームの台所事情を見ると、先発はメッセンジャー、藤浪、能見、岩田の4本柱をそろえているものの、5、6番手の不在は昨季からの懸案でした。今回の一軍キャンプメンバーでは榎田や岩貞あたりが先発ローテ入り候補として期待されています。苦しいのは先発だけではありません。昨季は中継ぎでも左投手の人手不足がウイークポイントでした。今年も福原、安藤のベテラン右腕に負担をかけるようでは、シーズン終盤に息切れしてしまいます。一人でも勝利の方程式に加わる左腕が成長すれば、大きな戦力アップ。江夏さんは先発だけでなく、抑え投手としても活躍した人だけに、メンタル面も含めて最高のコーチとなるはずです。
私も宜野座滞在中に少しでも野手陣の手助けをしたいと思っています。北條、陽川ら二軍で指導してきた選手たちも、初の一軍スタートで目を輝かせています。彼らが新しい風をチームに吹かせてくれれば、いい方向に向かうはずです。若虎たちの奮闘ぶりは次回以降に紹介したいと思います。