虎党の「落合博満監督待望論」に、早くもチーム内外から戦々恐々の声が巻き起こり始めている。
今季、開幕から最下位ロードをひた走る阪神だが、今後の成績にかかわらず、今季限りでの矢野燿大監督の退団は決定している。藤原崇起オーナーは、報道陣の「(矢野監督は)最後まで指揮を執るのか」という質問に対し「当然のこと。ファンには心配をかける格好だが、まだまだ成長の余地がある」と話し、シーズン終了までの登板を示唆。途中休養はないかもしれない。だが、退任が決まっている以上、新監督選びは現時点でスタートしているだろう。
人気チームであるがゆえに、自薦他薦が相次ぐ。だが今年に関しては、
「ファンだけでなく、球団OBからも『亡くなった星野仙一さんのような大物監督を据えて、チームを再建してほしい』という声が漏れ聞こえてきます」(在阪スポーツ紙デスク)
その大物監督の最有力候補となっているのが、元中日監督の落合氏なのである。
現役時代、史上最多となる3回の三冠王に輝いたスラッガーだが、監督としての実績も申し分ない。8年にわたって中日の指揮を執ったが、Bクラスになったシーズンは一度もなく、リーグ優勝4回、日本一1回という輝かしい成績を残した。
落合氏が指揮を執れば、阪神が常勝軍団に変貌を遂げる可能性は大だろう。外部の声に流されて監督を決定することも多い球団だけに、すんなり落合監督が誕生するかもしれない。だが、実現しても、フロントには手放しで喜ばない人間も多い。
阪神という球団は、勝たなくても客さえ入ればいい、という体質がある。長年、阪神を取材してきたベテラン記者は言う。
「優勝すれば、選手の年俸を上げなくてはいけない。球団としては昨年のように、優勝争いを演じて2位、3位に終わる方がいいと思っているフシがある」
「常勝軍団」は必ずしも歓迎されていないのだ。
さらに中日監督時代は、親会社の中日新聞にさえリップサービスをしなかった落合氏の就任を、関西スポーツマスコミは歓迎していない。阪神報道が命綱だけに、勝利だけを優先して気軽に取材に応じない落合氏の監督就任は死活問題になりかねないからだ。
虎党の大半は、強いチーム作りを望んでいる。それに推されて落合氏が就任しても、セ・リーグの他の5球団だけではなく、面従腹背の相手とも戦わなくてはいけない。「オレ流改革」にはイバラの道が待っているのだ。
(阿部勝彦)