WHO(世界保健機関)が全世界に向けて「緊急事態宣言(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態宣言)」を発出してからわずか2日後の7月25日、厚生労働省は、日本国内では初となる「サル痘感染者(30歳代男性、欧州滞在中に感染者と接触)」が東京都内で確認されたと発表した。サル痘や天然痘などに詳しい感染症学の専門家が言う。
「今年5月以降、アフリカ由来のサル痘の感染者数が、世界75の国や地域で1万6000人超にまで膨れ上がってきている。この事実から見て今後、日本国内でも感染者増が著しい欧米と同様の感染拡大が起こってくるものと考えておかなければならないでしょう」
厚労省は、国内未承認の治療薬を研究目的で使用できる体制整備を始めているというが、
「現時点では東京と大阪と愛知と沖縄にある合計4病院での使用に限られており、サル痘に有効とされる種痘(天然痘ワクチンの予防接種)も76年までに廃止されています。また、天然痘ワクチンの使用が急ぎ再承認されたとしても、必要量を直ちに供給できる体制は整っていません。さらに言えば、その天然痘ワクチンもサル痘への感染を完全に抑えられるわけではなく、ワクチンの有効性と持続性には一定の限界が存在しています」(前出・感染症学の専門家)
どういうことなのか。この専門家がさらに続ける。
「サル痘に対する天然痘ワクチンの有効率は約85%とされていますが、逆に言えば、ワクチンを接種しても『約15%には効果なし』ということになります。したがって、日本人の場合、76年までに天然痘ワクチンの接種を受けた種痘世代のおよそ15%も、おおむね49歳以下の非種痘世代と同じく、サル痘に対しては全くの無防備状態にある、ということになるのです。また、天然痘については80年にWHOによる撲滅宣言が出されたため、天然痘ワクチンによる免疫がどれくらい持続するのかの疫学的データは存在しませんが、多くの専門家は『天然痘ワクチンの効果も、年を追うごとに低下していく』と考えています」
要するに、近い将来、国内での感染拡大が予想されるサル痘については「種痘世代といえども安心はできない」ということなのだ。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。