●ゲスト:鈴木邦男(すずき・くにお)<政治団体「一水会」顧問> 1943年生まれ、福島県出身。政治活動家。新聞社勤務を経て、73年に退社後、右翼団体「一水会」を創設し代表に就任する。その後、右翼側の論客として各メディアで活躍。99年に代表を退き、現在は顧問職。愛国心、表現の自由、原発問題などについて、いわゆる「右翼」思想の枠を超えた主張を展開する。著書多数、最新刊に坂本龍一との対談を収めた「愛国者の憂鬱」(金曜日)。
日韓・日中関係は、いつの時代も歴史の大きな関心事だ。近年は「ネット右翼」と呼ばれる、若い世代の嫌韓・嫌中を精神的なよりどころにした社会活動も可視化されている。約半世紀にわたって“右翼”活動を続けてきた鈴木邦男氏とともに、今現在の「右傾化」現象を天才テリーが鋭く追った!
テリー 僕は、鈴木さんが今、どんなことを考えているのかなっていうのが知りたくて、去年は鈴木さんの本を5冊も買ったんです(笑)。
鈴木 あらら。そんな、申し訳ありません。
テリー 今月8日のJリーグの浦和レッズとサガン鳥栖の試合で、浦和レッズサポーターが「JAPANESE ONLY(日本人以外お断り)」と書いてある横断幕を掲げて問題になりましたよね。
鈴木 はい。
テリー 近頃、日本全体が「排他主義的」というのか、あるいは「愛国主義的」というのか、いわゆる「右」と呼ばれるものになっている‥‥と言われています。
鈴木 一般的に、今の「右傾化している」と言われている人たちは「国家が強くなれば自分自身も強くなれるんだ」みたいな、そういう錯覚をしている人が多いと思いますね。
テリー なるほど。
鈴木 「国」という存在を、自分の「個」のレベルに落として考えている。だから「韓国、中国になめられるな」とか、「やっちまえ」とか「核を持ったら強くなれる」とか、子供のケンカのレベルです。
テリー ケンカを一度もしたことがない人が「俺はケンカが好きなんだ」とか言っているのと似ていますね。
鈴木 そうですね。
テリー 実際に殴られたら、すごく痛いじゃないですか。そういうリアルな実践がない人たちがどんどん膨れていって、大きな声になっていくという、この現状は怖いですよね。
鈴木 僕は40年以上右翼運動をやってきましたけど、同じ考えの人が集まると気持ちいいんですよ。「そうだそうだ」と、共有できるから。「左翼なんか日本から出ていけ」と。でも、同じ考え同士が集まるからこそ、どんどん強い方向に行きすぎて、歯止めが効かないっていう面もあります。
テリー 近くに異を唱える人間が、いないわけですからね。反対意見を言う者は外されますから。
鈴木 そういう点は、テリーさんにしろ僕にしろ、運動や何かで実体験のある人間たちが、きちんと伝えていかなきゃダメじゃないかなと思うんです。今は日本国全体が運動家みたくなっちゃって、どんどんと声の大きい人、強い人、そういうのに扇動されているというような気がしますね。
テリー 「右傾化していく」という言葉なんですけれども、どういう形の右傾化なんでしょうか。いろいろあると思うんですよね。「右傾化」という捉え方も。
鈴木 僕はね、むしろ「思想を持った右傾化」というよりは「保守型」になっていると思うんです。「今のままでいいや」とか、あるいは「もっと過去の日本は、すばらしかったんだ」みたいな、「過去の栄光を取り戻そう」といった、後ろ向きの方向が非常に多いと思うんですよ。
テリー 背景にあるのは「思想」ではなく、もっとシンプルに「保守化」だ、ということですか。
鈴木 はい。かつてだったら日本の中でも、一つ一つの考えを中心に全員をまとめようとすると、排外主義になるからそれはよくない、という理想や夢を言う自由があった。今はたぶん、理想や夢を言う自由はないですね。「そんなこと言って、中国、韓国が攻めてきたらどうするんだ」と、そういう意見でもう終わっちゃう。
テリー 異論を語るスキがない、と。
鈴木 思考を停止してるような状況じゃないのかなと思うんですね。僕らが学生運動をやってた頃は、敵もいっぱいいたし、全共闘にもいじめられたけど、ものすごくいろんな勉強になりました。自分と考えが違う人間がいるんだっていうことを知りましたね。今はたぶん、自分と考えが違うんだっていうことを知らないというか、許せないんじゃないですかね。それで自分たちのことは何か「統一された日本人」だと。「愛国心だ、中国・韓国にはなめられるな」と。「それだけが全てで、それだけが正義だ」みたいな感じがしますね。